
Gísli Gunnarsson
Úr Öskunni
Gísli Gunnarsson
Úr Öskunni
- release date /2025-11-07
- country /Iceland
- gerne /Ambient, Post-Classical, Post-Rock, Shoegaze
アイスランド出身のアーティスト、Gísli Gunnarssonの2ndアルバム。
Gísli Gunnarssonは、ポストクラシカルを基盤にポストロックやシューゲイズ、ブラックメタルの要素を取り込み、アイスランドの自然を連想させる広大なサウンドスケープを表現している。そのスタイルは、Ólafur ArnaldsやSigur Rósの静謐さに、Alcestの哀愁味のある轟音を巧みに融合したサウンドと評される。
前作『Mementos』はゲストを迎えたコラボレーション色の強い作品で、繊細なポストクラシカル〜ポストロックが主体だった。一方、本作は火山活動によって避難を余儀なくされ、家を失ったGísliの実体験が背景にある。自然の脅威と畏怖、そして失われた故郷の情景を描くにあたり、ピアノやストリングスによる静謐な美しさと、ドラマティックな轟音の対比がより強調されている。
オープニングの#1 “Heima”は、Gísliが育った漁村Grindavíkのかつての姿を表現した一曲だ。重厚で美しいストリングスが、自然あふれるアイスランドの雄大なランドスケープへと誘ってくれる。#2 “Lúpína”はアコースティック・ギターとピアノ、ストリングスを軸にした穏やかな楽曲で、光に満ちた風景を克明に描写している。
続く#3 “Andlitin í Berginu”では、Gísliの柔らかな歌声を軸にゆったりと進行し、やがて火山が噴火するかのように歪んだギターが一気に爆発する。ドラムにはコラボも果たした盟友AlcestのWinterhalterが参加し、楽曲に奥行きと立体感をもたらしている。
#4 “Aska”は、地鳴りのごときドローンの音響で住み慣れた家が炎に包まれた絶望を表現。胸が詰まるほどの重苦しさとともに深い無力感が心に刻みつけられる。
決定的な崩壊を経て、視点は個人の感情へと深く潜り込んでいく。ストリングス主体のクラシカルなパートから轟音とともに哀愁を爆発させる#6 “Söknuður”は、温もりを失い凍てついた世界で、出口のない霧の向こうを彷徨うような喪失感が綴られている。
序盤から重厚な轟音を放つ#7 “Þjófagjá”は、Alcestがポストメタルやドゥームゲイズへと接近したような新機軸のアプローチを見せる。悲痛なメロディに吹雪の中に独り取り残されたような孤独が滲む。
ラストの#10 “Þar sem vindurinn þekkir nafn mitt”は、「帰るべき場所は灰に消え、かつての記憶をとどめているのは、今や吹き荒れる風のみである」という諦念が漂う。しかし、ヘヴィな轟音に浮かぶメロディには、わずかながら再生を予感させる光が宿っている。終盤に向けて牧歌的なフィドルへと移行し、瓦礫の山に再び緑が芽吹くような希望の兆しを覗かせながら静かに幕を閉じる。
科学が進歩した現代においても、自然の圧倒的な力の前では、人の存在はあまりに小さい。『Úr Öskunni』は、その力によって失われたものたちへ捧げられた、気高く美しい鎮魂歌である。

iVy
混乱するアパタイト
iVy
混乱するアパタイト
- release date /2025-06-18
- country /Japan
- gerne /Alternative Rock, Dream Pop, Electro Pop, Indie Pop, Shoegaze
東京を拠点に活動するオルタナティブ・ポップ・デュオ、iVyの1stフルアルバム。
SNSで出会ったfuki(Vo/Gt)とpupu(Vo/Key)により2023年に結成。当初は宅録主体で、SoundCloudを中心としたプライベートな活動だったが、ライブを重ねる中で注目を集め、1st EP『幽泳プログラム』をリリース。iVyちゃんという架空のキャラクターをコンセプトに、内省的な感情をカラフルなサウンドで描く作風が人気を博した。2023年10月の初ライブから2年足らずで、2025年8月にはWWWでの初ワンマンを成功させ、同年11月には初の海外公演も実現。国内外で存在感を急速に高めている。私が初めてライブを観たのは2024年3月の中野heavysick ZEROだったが、その後の飛躍は目を見張るものがある。
本作のタイトル『アパタイト』は、iVyちゃんのイメージカラーでもある水色の宝石に由来し、サウンドの透明感や幻想的な世界観を象徴している。前作で確立されたドリーミーなサウンドはさらに磨かれ、ポップさやユーモアを強めつつ、多彩で感情豊かなアプローチへと発展している。
重厚なギターのサウンドメイクにWispとの共鳴を感じさせる#2 “ホワイト・リバー・ジャンクション”、ドリーミーでキャッチーなサウンドと自罰的な歌詞のコントラストが印象的な#3 “ヴァンパイア”、切実な感情を吐露するポエトリーパートが胸に迫る#6 “any n○ise”、サイレンのようにうねるシンセがパーティーのような高揚感をもたらす#12 “ファミレス・ロック”など。アルバム全体を通して、カラフルな曲調が次々と飛び出し、まるで遊園地に放り込まれたような心地が味わえる。
その一方で、前作と比較するとメランコリックなムードはやや後退している印象だが、それはあくまで表層的な変化に過ぎない。歌詞に目を向けると、ポップなメロディの裏に、わずかな不穏さや痛みが潜んでいることに気づくはずだ。グリム童話の原典や、MOTHER、UNDERTALEに通じる、純粋さの奥に潜む陰影。その気配に、私はどうしても惹きつけられてしまう。
また、歌詞はメロディに滑らかに寄り添うよう配置され、ときに意味を越えて、心地よい響きそのものとして機能している。ポップなメロディセンスと、歌詞がもたらす言語的な快楽の調和こそが、iVyの人気の秘訣の1つといえるだろう。

terraplana
natural
terraplana
natural
- release date /2025-03-11
- country /Brazil
- gerne /Alternative Rock, Dream Pop, Grunge, Indie Rock, Noise Pop, Psychedelic Rock, Shoegaze
ブラジルのクリチバを拠点とするシューゲイザー・バンド、terraplanaの2ndアルバム。
Twitterでの出会いをきっかけにStephani Heuczuk(Ba/Vo)とVinícius Lourenço(Gt/Vo)を中心に2017年に結成。現在はCassiano Kruchelski(Gt/Vo)とWendeu Silverio(Dr)を加えた4人編成で活動している。
前作『Olhar Pra Trás』は、シューゲイズ/ポストロック由来の轟音と柔らかなボーカルの対比が特徴で、南米のSlowdiveとも評される内省的な幻想美が魅力だった。今作『natural』では、ツインボーカルの比重に変化が見られ、ソロパートが増えたことで構成にメリハリが生まれている。さらに、ややポストロックを離れ、90年代グランジ風のギターワークが多くフィーチャーされているのも特徴だ。
その変化を象徴するのが、#3 “charlie”だ。Nirvana風のリフで幕を開け、そこに淡く繊細なメロディが重なる。ポルトガル語の歌がどこか異国的な響きを演出することで、独自のスタイルを確立させている。 #4 “hear a whisper (feat. Winter)”での、軽快に跳ねるリズムと、英語とポルトガル語が混在するボーカルも新境地を感じさせる。
2023年にDeafheavenブラジル公演のOAを務め、2025年にはSXSW出演とアメリカツアーを実施。2026年にはUSの新興シューゲイズ・フェスslide away(Hum、Nothing、Chapterhouseがヘッドライナー)のLA公演への参加も決定した。ヨーロッパツアーも控えるなど、国際的な評価は着実に高まりつつある。目覚ましい成長を遂げているブラジル産シューゲイズの現在地を知る上で、『natural』は最良の入門編となるだろう。

Last Leaf Down
Weight Of Silence
Last Leaf Down
Weight Of Silence
- release date /2025-04-11
- country /Switzerland
- gerne /Dream Pop, Post-Metal, Post-Punk, Post-Rock, Shoegaze, Slowcore
スイスのシューゲイズ・バンド、Last Leaf Downの3rdアルバム。
2003年の結成当初はKatatoniaの流れを汲むドゥームメタルを追求していたが、2007年後半のBenjamin Schenk(Vo/Gt)加入を契機にシューゲイズへと転身した異色の経歴を持つ。2014年の『Fake Lights』、2017年の『Bright Wide Colder』という2枚のアルバムを通じて、凍てつく空気をまとった繊細かつメランコリックな世界観を確立。世界最大級のゴシック・フェスティバルWave-Gotik-Treffenへの出演や、Alcest、Les Discretsのサポートを務めるなど、確かな足跡を残してきた。日本国内では所属レーベルの特色ゆえにメタル方面での認知が先行していたが、ゲームクリエイターの小島秀夫が、Xで作品に言及したことで、新たな層の音楽ファンからも脚光を浴びた。
前作から約8年という長い沈黙を破って届けられた本作は、サウンドの変化により、過去作の凍てつくような冷気が和らぎ、雪解けを予感させる柔らかな質感をもたらしている。一方で、#8 “A Quiet Lost War”や#9 “The Ending”は、Last Leaf Downの象徴ともいえるダイヤモンドダストのように煌めくアルペジオや、感情を揺さぶるトレモロ、および熱量を帯びた芯のあるボーカルによる哀愁美がしっかり発揮されており、旧来のファンも安心の仕上がりだ。
加えて特筆すべきは、#4 “Illusion”。これまででトップクラスにアップテンポなナンバーで、新たなフェーズへと踏み出したバンドの生命力を象徴しているかのようだ。しかし、その歌詞はどこまでも陰鬱であり、サウンドの変化にも関わらず、彼らの根底にあるアイデンティティは決して揺らいでいない。

Seventh Dose
Liminal
Seventh Dose
Liminal
- release date /2025-11-05
- country /US
- gerne /Alternative Rock, Dream Pop, Grunge, Nu Gaze, Shoegaze
カナダ・トロントのシューゲイズ・バンド、Seventh Doseの2nd EP『Liminal』。
中心人物であるCasper Ostanski(ba/vo)は、ヘヴィメタルやハードコアへの傾倒を経てシューゲイズへと辿り着いたという。本作では、ニューメタルの重厚さとシューゲイズの幻想美を融合させた、現代的なニューゲイズ/グランジゲイズを展開している。
グランジやメタル由来の重層的なギターサウンドに、ロマンティックで甘い歌声が浮遊する。その響きは鎮痛剤のように傷んだ心に哀しみを優しく包み込む。収録された4曲はいずれも高いクオリティを誇り、バンドの確かなポテンシャルを証明している。
2024年にSoftcultのサポートを務めたほか、2026年4月のSoul Blindトロント公演ではSplit ChainやDownwardらと共演するなど、ライブシーンでも着実に存在感を高めている。the nevermindsやcherry pick、Deer Fangといった新鋭バンドとともに、カナダのシューゲイズ・シーンの現在地を知る上で欠かせない存在となりそうだ。

The Midnight
Syndicate
The Midnight
Syndicate
- release date /2025-10-03
- country /US
- gerne /Drum&Bass, Dreamwave, Retrowave, Synth Pop, Synthwave
アメリカ・ロサンゼルスのシンセウェイヴ・デュオ、The Midnightの6tnアルバム。
The Midnightは作曲家兼プロデューサーのTim McEwanとシンガーソングライターのTyler Lyleにより2012年に結成。2016年の1stアルバム『Endless Summer』において、80年代風のエレクトロニックなサウンドとエモーショナルなボーカル、叙情的なサックスを融合させたサウンドを提示。シンセウェイヴの源流はインストが主流だったが、Tylerの歌声は強烈な存在感を放ち、ジャンルの代表格としての地位を確立した。近年は「Kids」3部作(『Kids』『Monsters』『Heroes』)を通じてローファイや80年代ロックの要素を取り入れるなど音楽性を拡張し続けてきたが、本作は自由な発想のもと制作され、新たな要素を取り入れながら、初期の傑作『Endless Summer』や『Nocturnal』への回帰も覗かせる集大成的な作品となっている。
その方向性を象徴するのが、先行シングル#15 “Love is an ocean”だ。エレクトロビートが静かに鼓動を刻む中、シンセサイザーが夜の海面に反射する星の光のように煌めき、Tyler Lyleのなめらかな歌声がリフレインする。そしてブレイクを挟み、静寂を切り裂くように哀愁のサックスが一気に炸裂する展開は、まさに彼らの真骨頂といえる。初めて彼らの音楽に触れるリスナーにとっても、最適なトラックだろう。
他のトラックもメランコリックな作風が貫かれていて、本作のサイバーパンク的な世界観を強固にしている。ここからは初期のテイストが強い楽曲をピックアップして紹介する。
#3 “Runaways”は、ゲストのBonnie McKeeの力強くも透明感のあるボーカルが自由への渇望を歌い上げるダンスチューン。終盤のサックスがもたらす高揚感も印象的で、『Nocturnal』期を愛するファンの心を掴むだろう。
#12 “Fatal Obsession”はJupiter Winterをフィーチャーし、ダウンテンポの哀愁漂うアンサンブルで愛の執着がもたらす心の陰影を描く。サックスもなめらかに寄り添い、メランコリックなムードに深みを与えている。なおJupiter Winterは、Lelia BroussardとRoyce Whittakerによるデュオであり、近年のThe Midnightの制作・ライブ双方に関与する重要な存在だ。
しかし、本作は単なる過去への回帰に留まらない。ダークシンセの重鎮Carpenter Brutをフィーチャーした#10 “First Night in Paris”では、重厚なベースとアグレッシブなビートで激しく攻め立て、続く#11 “Afterglow pt. 2”ではドラムンベースの鋭利なリズムを導入するなど、既存のシンセウェイヴの枠組みに囚われない新たなアプローチも覗かせる。
#16 “Sanctuary”は、ピアノの伴奏からシンセの重層的なシンフォニーへと発展する壮大なバラード。7/8拍子で進行し、終盤に一気にダンスビートへと転換する展開も鮮烈だ。ボコーダーを介して震えるように歌われる「Hold me til the world fades away」(世界が消え去るまで、私を抱きしめて)という一節は、崩壊していく世界で人類が最後にアーカイブしたメッセージのようにも聞こえる。
そしてクロージングの#17 “Summer’s Ending Soon”では、柔らかな歌声が凪いだ海のように優しく響き、物語の終わりを告げる。このタイトルは、デビューアルバムである『Endless Summer』から続く歩みの集大成であると受け取れる。
洗練されたプロダクションと多彩なアレンジ、そしてより深みを増したボーカル・パフォーマンス。全てにおいてキャリア史上最高峰のクオリティに到達した傑作だ。初期作を再構築しつつ、新たな方向性を提示したという点においても、マンネリに陥りがちなシンセウェイヴの未来を示唆する作品といえる。彼らの鳴らす音はネオンライトが輝く都市のように、どこか希望に満ちた光を投げかけている。
また、シンセウェイヴというジャンルの枠を超え、バンド編成によるライブ・パフォーマンスを展開している点も特筆すべきだろう。現時点で来日公演の予定はないが、一人でも多くの日本のリスナーに彼らの音が届くよう、このレビューが一助となれば幸いだ。

MINAKEKKE
Anti Past-Future
MINAKEKKE
Anti Past-Future
- release date /2025-04-16
- country /Japan
- gerne /Darkwave, Dream Pop, Electronic, Gothic, New Wave, Trip Hop
日本のシンガーソングライター、ユイミナコによるソロプロジェクト、MINAKEKKEの3rdアルバム。
2017年のデビューアルバム『Tangled』では、アシッド・フォークにシューゲイズやニューウェイヴ、ゴシックの要素を取り入れたメランコリックな世界観を提示し、2022年の『Memorabilia』ではエレクトロニックなアプローチへと舵を切った。そして約3年の月日を経てリリースされた本作は、これまでの歩みを集約しながらも、さらなる飛躍を遂げた野心作となっている。
本作『Anti Past-Future』についてMINAKEKKEはこうコメントしている。
「過去と未来に反抗していくことは、
結果的に『今』を全ての時間軸を、自分自身を肯定していくことになるのではないかと考えている
『今』を送るだけで、それだけで充分」
アートワークに目を向けると、札束や宝石、酒といった尽きることのない欲望、砂時計が刻む浪費される時間、他人の視線を象徴する目玉や死の概念である髑髏などが、脳を取り囲むように描かれている。これらは、現代人が抱える生きづらさを象徴しているのかもしれない。『今』と懸命に向き合うことでそれらを振り払い、自己を解き放とうとする精神性を体現しているように映る。
そのテーマを表現する音楽性は極めて多彩だ。Cocteau TwinsのElizabeth Fraserを連想させる優美で繊細な歌声は、時にKate Bushのようなエキセントリックな表情をも覗かせる。4AD的な幽玄美を湛えたギターの音色、そして80年代風の脈打つビートが同居し、ゴスやダークウェイヴの趣も色濃く漂わせる。一方で、硬質なエレクトロビートも導入されており、クラブ志向のサウンドにも足を踏み入れている。これまでの作品以上に特定のジャンルで括ることは困難なほど、サウンドの幅が広がっている。
ここからは、ダークな音楽を好むリスナー向けの楽曲をいくつか挙げたい。
#2 “Wheels”
冷たく硬質な4つ打ちのビートに煌めくギターのアルペジオが重なり、歌声が軽やかに飛翔する。GrimesやCrystal Castlesを連想させる退廃的なダンスチューン。
#6 “TERRIBLE”
ホラー色はアルバム屈指。John Carpenter風の不穏なシンセに背筋がゾッと冷たくなる。
#8 “C/FALL”
反響するギターとアンニュイな歌声が絡み合うアレンジはSlowdiveの“Sugar for the Pill”を彷彿とさせる。中盤からソフトな4つ打ちビートへとシフトしながら、歌声は輪唱のように重なり合っていき、どこか空虚なムードを滲ませていく。
#9 “Alright”
仄暗い日本情緒を湛えた80年代風のシンセポップ。中森明菜のアルバム『不思議』を現代的にアップデートしたような質感があり、近年のワールドワイドなダークウェイヴ・リバイバルとも共鳴しそうなナンバー。
初期のフォーク的なスタイルから出発し、作品ごとにドリームポップ、シューゲイズ、ゴシック、ダークウェイヴからクラブミュージックまで自在に操りながら進化を遂げてきた彼女の姿は、増築を繰り返すサグラダ・ファミリアのようでもある。それでいて、メランコリックでダークな世界観が貫かれている点は独自の強みだ。強烈な個性を放つ各楽曲を、圧倒的な表現力を持つ歌声という唯一無二の武器で束ねたMINAKEKKEの真骨頂といえる力作だ。
ちなみに彼女のライブへ初めて足を運んだのは約10年前で、アコースティックギターとルーパーを駆使した弾き語りのスタイルだった。当時から卓越した歌唱力を持つシンガーとして異彩を放っていたが、音楽性が大きな変貌を遂げた現在、どのようなパフォーマンスを見せてくれるのか興味は尽きない。その進化を見届けるべく、再びライブ会場へと足を運ぶ必要がありそうだ。
余談ながら、当時のライブで披露された“Ekho”という楽曲が今も深く記憶に残っている。感傷的なメロディが胸を打つ名曲でありながら、残念なことにサブスク等での配信は行われていないようだ。いつの日か再び日の目を見ることを願わずにはいられない。

REMINA
The Silver Sea
REMINA
The Silver Sea
- release date /2025-10-24
- country /New Zealand
- gerne /Ambient, Doom Metal, Drone, Gothic Metal, Post-Metal
ニュージーランド・ダニーデンのコズミック・ドゥーム・プロジェクト、REMINAの2ndアルバム。
REMINAは、Mike Lamb(Sojourner)とHeike Langhans(Sojourner, ex-Draconian, ex-ISON)によって2021年に結成された。Mikeはギター、ベース、シンセサイザーを担当。Heikeはボーカル、作詞、シンセサイザーにとどまらずアートワークも自ら手掛ける。そして本作より、Shayne Roosが正式ドラマーとして加入。リズムセクションが強化されている。
音楽性は、Heikeがかつて在籍したISONと比較するとややコンパクトでキャッチーな仕上がりだが、宇宙を漂うようなスケール感は依然として健在だ。作品全体を通じて、茫漠とした暗闇と、輝く星々のコントラストを美しく描き出している。
特にアルバムの核といえるのが#5 “Theia” だ。アトモスフェリックなギターとシンセサイザー、そしてHeikeの幽玄な歌声が重層的に絡み合い、暗黒の宇宙にたなびく大星雲のような壮麗な景色を呼び起こす。まさにREMINAの真骨頂といえるナンバーである。
ゲストとの化学反応も印象的だ。#2 “Algol”はUKダークロックのAntimatterのボーカリスト、Mick Mossとのデュエットを披露。Mickのマイルドな中低音とHeikeの儚い歌声が、変光星アルゴルのように重なり合いながら明滅する。また、2人の歌声は星座を司る英雄ペルセウスと怪物メドゥーサのような対照をなしている点も注目すべきだろう。
また、既存のプロジェクトの枠に留まらない新たな試みも随所に見られる。#6 “Io”では硬質なインダストリアル・ビートを導入し(Heikeのダークウェイヴ・プロジェクト、:LOR3L3I: への接近とも取れる)、続く#7 “Silence and the Silver Sea” はゴシックロックや初期ゴシックメタルを彷彿とさせる躍動感のある展開を披露。ボーカリストとしての類まれな表現力もさることながら、アートワークまで自ら手掛けるHeikeの創造性は、人類未踏の宇宙へと航行を続けるボイジャーのように、その領域を拡大し続けている。

The Deadly Affair
Visions Through The Sense of Silence
The Deadly Affair
Visions Through The Sense of Silence
- release date /2025-05-16
- country /Chile
- gerne /Alternative-Rock, Darkwave, Drone, Experimental, Funeral Doom, Gothic, Noise Rock, Sadcore, Shoegaze, Slowcore
チリ・サンティアゴのエクスペリメンタル・ロック・バンド、The Deadly Affairの1stアルバム。
数十年にわたり実験音楽の地平を切り拓いてきたAtom™をプロデューサーに迎え、約1年の歳月をかけた緻密な共同作業の末に完成した。サウンドの核となるのは、エレキギターのロングトーンによる陰鬱な残響と、アコースティックギターの繊細な調べの調和だ。そして中心人物であるSantiago González Lihnの呪術的なボーカルや、シャーマニックなドラムと地響きのようなベース、幽玄なシンセが加わり、霧に包まれた灰色の荒野を延々と彷徨うような極めて内省的で没入感のあるサウンドスケープを生み出している。
ゴシックやダークウェイヴ、ドローン、シューゲイズ、スロウコア、さらにはフューネラルドゥームまでをも内包するハイブリッドな音楽性は、安易なカテゴライズを拒絶する強度を誇っている。チリのアンダーグラウンド・シーンの底知れなさを象徴する秀作といえる。

ELLEREVE
Umbra
ELLEREVE
Umbra
- release date /2025-11-07
- country /Austria
- gerne /Alternative Rock, Black Metal, Doomgaze, Folk, Post-Metal, Shoegaze
オーストリアのマルチ・インストゥルメンタリストElisa Giulia Teschnerによるソロ・プロジェクト、ELLEREVEの2ndアルバム。
ELLEREVEは本名から抜き出した「El」と、reveal(明らかにする)に由来する「Reve」を掛け合わせた造語で、フランス語の「elle rêve(彼女は夢を見る)」という意味も内包している。
ラテン語で「影」を意味する『Umbra』は、自己を映し出す鏡としての「影」を象徴し、自身の内面と向き合い、それを受容するプロセスをテーマとしている。
サウンド面では、彼女が愛好するAgallochやAmenra、Holy Fawnといったアーティストからの影響をダイレクトに昇華。トラッド・フォーク由来の呪術的なムードに、ポストメタルやシューゲイズ、ブラックメタルの重厚なテクスチャーを重ね、ブラストビートやスクリームといった過激な表現も積極的に導入している。静寂と轟音のコントラストがもたらすカタルシスは前作を大きく上回り、内に秘めた激しい感情を生々しく描き出す。
ゲストにはHarakiri for the SkyのMichael J.J. Koglerや、HeretoirのDavid “Eklatanz” Conradが参加。さらにマスタリングはEmpyriumのMarkus Stockが担当しており、欧州ダークメタル・シーンの重要人物たちが作品に奥行きを与えている。
ハイライトは、1stシングルとなった#7 “The Veil of Your Death”。ブラックメタル風の高速ビートを軸に、J.J.のスクリームとElisaのクリーンボーカルが交錯する壮絶なナンバーだ。中間部に静謐なパートを挿入するドラマティックな構成も相まって、新章の幕開けを強く印象付ける。
また、#3 “Crawl”では闇に沈み込むようなポストメタルの重量感が際立ち、#9 “Lost in Longings”では従来の作風に通じる繊細で牧歌的な旋律が、光を求める祈りのように響く。
幾度も表情を変える楽曲群は、人間の心の不安定さや複雑さを鮮やかにあぶり出す。夜の静寂の中で、自らの葛藤や怒り、あるいはトラウマと向き合いながら聴けば、その先にある解放へと至るための一助となるだろう。
Dead Can DanceやShedfromthebody、Chelsea Wolfeの世界観を好むリスナーはぜひチェックしてほしい。


