
雪国
pothos
雪国
pothos
- release date /2024-06-05
- country /Japan
- gerne /indie-rock, slowcore, post-rock, shoegaze, dream-pop, folk
川端康成の代表作の名を冠する東京の3ピース・インディーロック・バンドのデビューアルバム。
彼らの最大の武器は侘び寂びを感じさせる美しいメロディ。ポストロックやスロウコア、シューゲイズ、フォークなど様々な要素が絡み合って生み出された叙情美に雪の情景を重ねずにはいられません。特に繊細なトーンのアルペジオや透明感のある切ない歌声がいっそう雪のイメージを強く印象付けます。
朝日をいっぱいに反射して眩く輝く雪、鉛色の空からはらはらと舞う雪片、荒涼とした原野に荒れ狂う吹雪、目の眩むほど広大な純白の雪原……1時間強、全15曲によって雪国の美しさをすべて網羅せんばかりの濃密な世界観が描かれています。
ラジオのインタビューによると彼らは特定のジャンルやバンドを目標にしているわけではなく、自分たちが好む音を紡いで“雪国に抱く憧れ”を表現しているそうです。
私は彼らの繊細な叙情美からスピッツやきのこ帝国、羊文学などの影響が少なからずありそうだとにらみましたが、WhirrやKauanを連想させる凍気も感じられ、その筋のシューゲイズ〜ポストロックを好む人にもぶっ刺さることでしょう(つまり私)。
そんな私が選ぶベストソングは#1"本当の静寂"。しっとり歌い上げる導入から、一気にアルバム随一のダークさを解き放つ流れが狂おしいほど好きなんですが、あっさり終わってしまうが少々心残り。密かにロングバージョンが存在してほしいと願わずにはいられません。
また、アルバム全体がひと繋ぎの物語のようになっているため、必ず一度は曲順通りに聴くことをオススメします。中でも静と動の対比で揺さぶる#6"ステラ"〜#7"夕立"、幽玄美漂う#8"消失点"、ドラマティックな展開で魅せる#9"真夜中"の一連の流れは特に気に入っています。そんな感じで、デビューアルバムにしてすでに名曲の大渋滞。このままいくと次作も凄まじいことになりそうで戦々恐々です。
またMVやグッズの制作に加え、自主レーベルで販売まで手がけるDIY精神もアッパレ。将来的には自主レーベルから他のバンドのリリースもしたいとのこと。そんなに手広くやっていて大変そうと思いきや、ChatGPTをうまいこと活用しているそうな。やはりAI……! AIはすべてを解決する……!
なおメンバーは現在大学生で就職活動の真っ只中ですが、ラジオで「今後もバンド活動を続ける以外の選択肢はない」と力強く宣言していたことをご報告いたします。今後がますます楽しみですね!