Pia Isa
Dissolve
Pia Isa
Dissolve
- release date /2024-06-28
- country /Norway
- gerne /doomgaze, drone, doom-metal, psychedelic-rock
ノルウェーのソロアーティストPia Isaksenの2ndアルバム。同郷のサイケ/ドゥームメタル・バンドSuperlynxのベースボーカルを務める生粋のヘヴィミュージック職人であるPia Isaksenが、Slow heavy dronegazeを標榜し、地鳴りのような重厚なギターとゆっくりと歩みを進めるドラム、妖しく気だるげな歌声によって酩酊感たっぷりの世界観を生み出しています。本作では以前よりボーカルにアトモスフェリックな質感が加わり、若干シューゲイズ度がアップしているため、ドローンやドゥーム系に馴染みがない方もぜひお試しあれ。きっと足をぬかるみに取られながら、霧深い樹海を彷徨うような感覚が味わえることでしょう。お酒を片手にゆらゆらと頭を振るも、そのまま目を閉じて身が沈むに任せるもまた一興かと。BorisやKing Woman, Chelsea Wolfeなどが好きな方もぜひ。
ちなみにPia Isaksenは、本作にゲスト参加したYawning ManのGary Arce と新しいバンドSoftSunでも活動しているので、ぜひチェックしてください。どんな作風かって?そりゃヘヴィに決まってますがな!
EARTHLING
寓話
EARTHLING
寓話
- release date /2024-11-06
- country /Japan
- gerne /post-rock, alternative-rock, shoegaze, post-metal, doom-metal, gothic-metal, progressive-rock
町田を拠点に活動するポストロック/シューゲイズバンドの2ndEP。EARTHLINGは2022年に結成し、Ayaka(Vo)、Katty(Gt)、Raita(Ba)、Hiroki(Dr)、Mitan(key)※サポートの5人編成で活動中。バンド名はデヴィッド・ボウイのアルバム“Earthling”が由来。
1stEPから約半年という短いスパンでリリースされた本作は、ヘヴィなギターと美しいボーカルという組み合わせを継承しつつ、よりスロウでダークなサウンドへシフトしており、闇と美の対比がより際立った印象を持ちました。
#2“灰色”は、水の揺らめきのような幻想的なイントロから一気にヘヴィなギターがなだれ込み、暗い森の中へと我々を連れ去っていく。ゴリゴリと刻むギターをバックにボーカルのAyaka氏は時に妖しく、時に情熱的に歌いあげ、まるで暗闇に灯るロウソクのような存在感を放っています。続く#3“残像”ではシューゲイズらしい幻想的な歌声を披露。いっぽうギターは轟音のままというギャップが鮮烈。静と動、柔と剛という相反する要素を巧みに組み合わせる手法はEARTHLINGの真骨頂。
また一筋縄ではない起伏に富んだ構成や妖艶な暗黒美には個人的にThe 3rd and the MortalやUnholyといった90年代のカルトなゴシックメタルに通じるものを感じました。あの頃のサウンドにシューゲイズ〜ポストロックの要素を注入したらこんな感じになるかもしれませんね。インタビューによるとシューゲイズ以外にもV系、メタル、ゴシック、インダストリアル、プログレなど様々なジャンルに影響を受けているそうで、この個性的なサウンドに至ったのも納得です。
“寓話”というタイトルもどこか意味深。私は開幕の時計の音や、「灰色」の歌詞の「馬車」というフレーズからシンデレラ(灰かぶり姫)を連想しましたが、最後は本来の物語とは異なる悲劇的な結末を迎えたようです。彼らはあえてバッドエンドルートのシンデレラを描くことで「魔法の力なんかに頼ると痛い目をみる。自分の力で生きろ」という教訓を込めた寓話を作り上げたのかもしれません。まぁこれはあくまで私の妄想なので、あまり真に受けないよう……彼らの音楽を通じてどんな解釈を導き出すかは貴方次第。
soto wa ame
街
soto wa ame
街
- release date /2024-09-07
- country /Japan
- gerne /shoegaze, dream-pop, alternative-rock, grunge, nu-metal, newwave
東京のエモゲイズ・バンドForbearのギターボーカルYuki Yoshida氏によるソロプロジェクト。AppleMusicのオススメに現れたので何気なく聴いてみたところ、USシューゲイズ風のヘヴィなサウンドに清涼感のある声質の女性ボーカルという組み合わせが新鮮で即座に気に入ってしまいました。さっそくこの魅力的な歌声の持ち主は何者なんだろうと調べてみたら、セルフライナーノーツでボーカロイドの音楽的同位体 裏命(RIME)だと判明。きっと調声の賜物でもあるだろうけど、ボーカロイドがここまで進化しているとは驚きでした。
イチオシは重厚でグルーヴィなリフとアトモスフェリックなパートの対比で魅せる#4“トロイメライ”。Narrow HeadやTeenage Wristなどを愛聴している人にぶっ刺さること間違いなし。いっぽう#5“遠泳”はヘヴィさを抑え、アンニュイな歌声とメランコリックなメロディのマッチングにより夜の街を彷徨っているような新たな一面を見せてくれます。しかしこのクオリティでSpotifyの月間リスナー数が一桁だなんてちょっと信じがたいですね……。「日本はヘヴィシューゲイズが少ないなぁ」とお嘆きの方はぜひsoto wa ameを聴きましょう!
ちなみに制作者のYuki Yoshida氏はかなりのシューゲイズオタクのようで2020年代のアメリカン・シューゲイザー新世代と国内シーンの諸相という記事を書かれています。昨今のシューゲイズ事情をサクッと俯瞰したい方はご一読をオススメします。
WORLD CITIZEN
Rebuilding the Ruins of Regret
WORLD CITIZEN
Rebuilding the Ruins of Regret
- release date /2024-11-02
- country /Japan
- gerne /post-rock, ambient, shoegaze, alternative-rock, post-classical
東京のポストロック・バンドのデビューEP。コンポーザーのNobuki Yagi氏は、元はsaisaというバンドで4つのアルバムをリリースし、中国や台湾で公演も行ったベテランのアーティスト。しかしコロナ禍によりツアーやレコーディングはすべて中止となりメンバーは離散、バンドは活動停止となったようです。その後、2023年公開の紀里谷和明監督の映画「世界の終わりから」の劇伴に抜擢されたことがきっかけで音楽への情熱を取り戻し、新たなメンバーとともにWORLD CITIZENとして再始動。バンド名は坂本龍一とデヴィット・シルヴィアンのコラボ作に由来しています。現在はNobuki Yagi(Gt/Vo)、Satoshi Adachi(Ba)、Kaz Matsuda(Dr)のトリオ編成で活動中。
WORLD CITIZENの存在を知ったのは、彼らの初企画となる吉祥寺NEPOのイベントがきっかけ。Presence of SoulやMYY.といったベテランのバンドとともに名を連ねており、興味が湧いてデモ音源を試聴したところ、冷たいピアノを散りばめたダークなサウンドにたちまち心を射抜かれました。
1stライブを経た後にレコーディングされた本作は、「後悔の廃墟の再生」と題し、より「希望」を感じさせる作風になっています。オープニングを飾る#1“Eternal Moment”は重厚なストリングスを主体としたインストで、モノクロームの世界に光が満ちていくような美しい情景が浮かんできます。#2“Faith in Ordinary”、#3“Siren”ではsaisa時代から変わらないクリスタルヴォイスを披露。オーロラのごときサウンドとあいまってSigur Rósのような神々しさすら感じられます。#4“Agitator”はsaisaの2ndアルバムの楽曲をリアレンジしたもので、ノイジーなギターが渦巻く混沌とした荒野に美しいピアノが降り注ぐ荘厳なナンバー。終盤には原曲にない新たなパートが加わり、よりドラマティックになっている点も見逃せません。
今後の日本のポストロックシーンを賑わせてくれそうな快作。これから彼らがどんな世界を描いていくのか非常に楽しみです。
また、この記事を書くにあたって前身に当たるsaisaの作品を全部聴いてみましたが、4作それぞれ作風が異なっていて、どれも素晴らしかったです。 個人的には凍度高めの轟音ポストロックが揃う2ndアルバム“and I will”がお気に入り。ご興味ある方はぜひチェックしてみてください。WORLD CITIZENで再録されている曲も幾つかあるため聴き比べてみるのもまた一興かと思います。※いずれもBandcampで試聴できます。
bloomcells
New Dahlia
bloomcells
New Dahlia
- release date /2024-02-14
- country /US
- gerne /shoegaze, nu-metal, grunge, alternative-rock
カリフォルニア州サンディエゴ発シューゲイズ・バンドによるデビューEP。Rory(Vo/Gt)、Danny(Vo/Gt)、Brett(Ba)、Reggie(Dr)の4人編成で、DeftonesやTool、Alice in Chains、System of a Downなどのヘヴィどころと共にMy Bloody ValentineやSlowdiveなどのシューゲイズ/ドリームポップをルーツに挙げ、それらを融合したヘヴィで美しいサウンドを開拓しています。いわゆる近年流行のニューゲイズ系ですね。いっぽうで轟音ギターの海に浮遊する甘い歌声にはType O NegativeやHIMといったゴスのエッセンスも垣間見えるのが興味深いところ。
さて問題は4曲目。イントロの陰鬱なギターリフから「And you don't seem to understand〜♪」と妙に聞き覚えのあるフレーズが飛び出したと思ったら、まさかまさかのserial experiments lain(1998年放送のカルト的人気を誇るSFアニメ)OPテーマの“Duvet”のカバーで腰を抜かしました。bôaによる繊細でおしゃれな楽曲がゴリゴリのヘヴィシューゲイズへ姿を変え、原曲のメランコリックな味わいが何倍にも増強されています。中間部ではヘヴィさをグッと抑えて繊細で美しいアルペジオとキーボード(個人的にDuvetで一番好きなパート)を再現しているあたりもリスペクトが感じられて好印象。後半の「AHHH〜♪」の後、サビを1コーラスで締めくくる構成はちょっと味気なくもありますが、かえって物寂しさが引き立っていて絶妙なアレンジだと思います。今まで聴いたDuvetのカバーの中で一番のお気に入り。気軽にmake me sadしたい方はぜひお試しあれ。
そんなこんなで曲のクオリティは申し分ないものの、全体的に音圧が低く、イヤフォンを最大音量にしても物足りない点が惜しまれます。しかし9月にリリースされた新曲“Decoyed”では改善されていたので、次作はプロダクション面の向上も期待できそうです。今後の期待も込めてベスト・オブ・ニューカマーにランクイン。
Melancholic Crossroads
Melancholic Crossroads
Melancholic Crossroads
Melancholic Crossroads
- release date /2024-07-16
- country /US
- gerne /dream-pop, witch-house, darkwave, gothic
USカリフォルニアのウィッチハウス・デュオによるデビューアルバム。
無機質な四つ打ちビートに虚ろな歌声の女性ボーカルをのせ、キラキラした幻想的なキーボードでコーティングしたサウンドは、まるで幽霊たちが集う舞踏会のBGMのよう。ちょうどハロウィンシーズンに聴いていたせいか妙にハマってしまいました。
『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』や『何かが道をやってくる』といったダークでメルヘンチックな物語が好きな人や、Crystal CastlesやSidewalks and Skeletons、Bansheeなどのダークなエレクトロを好むリスナーはぜひお試しあれ。
Teresa In the Moon
Amygdala
Teresa In the Moon
Amygdala
- release date /2024-07-15
- country /Mongolia
- gerne /dream-pop, new-wave, post-punk, darkwave, synth-pop
モンゴルのポストパンク/ドリームポップ・バンドの1stアルバム。2019年の結成当初はIvy In My Mindというバンド名でドリームポップをやっていましたが、2020年にTeresa in the Moonへ改名し、ポストパンク、ドリームポップ、ニューウェイヴをブレンドした80年代色の濃い音楽性へと変化。現在はギターボーカル、ベースボーカル、シンセ、ドラムの4人編成となっています。
Teresa in the Moonというバンド名は、1972年にアポロ17号の船長ユージン・サーナンが娘の名前「Teresa Dawn Cernan(テレサ・ドーン・サーナン)」を略して「TDC」と月面に書いたエピソードが由来。風や空気の無い月面で永遠に風化しないその名のように、リスナーに永く語り継がれて欲しいと願って名付けたのでしょう。
Amygdala(扁桃体)と名付けらた本作は、ダークなポストパンクと耽美なドリームポップを融合した光と闇が交錯するサウンドスケープが特徴。また、ギターボーカルOchir Munkhgerelのクラシックな80’sゴス由来の低音ヴォイス、ベースボーカルSaran Batbilegの繊細なウィスパーボイスという対称的な声質のツインボーカルも見どころの1つ。#2“Monochrome”や#4“Ivy”、#5“About US”で個性的なツインボーカルのハーモニーが披露されており、光と闇、幸福と悲哀が同居するTeresa in the Moonの世界観を代表する楽曲となっています。おなじみのDIIV風のキラキラしたアルペジオにもどことなく東洋的なメロディセンスが感じられる点もモンゴル産ならではの強みでしょう。
モンゴルはThe HUのような伝統音楽を取り入れるアーティストのイメージが強かったので、ゴスとドリームポップのクロスオーバーが存在するとは嬉しい発見でした。今後の活動が楽しみです。
Wisp
Pandora
Wisp
Pandora
- release date /2024-04-05
- country /US
- gerne /shoegaze, dream-pop, alternative-rock, grunge
カリフォルニア州サンフランシスコを拠点に活動するアーティストWisp(Natalie R Lu)によるデビューEP。
Wispを瞬く間に有名にしたのは1stシングルのYour Face。当時18歳のNatalie R Luが、grayskiesによって制作されたトラックにAppleのイヤフォンをマイク代わりにして歌を入れ、携帯でミックスしてTikTokへアップロードしたところ大ヒット。Spotifyでリリースされると約1ヶ月で100万再生を達成しました。そして2曲目をリリースする前にBillie EilishやLady Gagaなどを擁するメジャーレーベルInterscope Recordsと契約を結ぶに至ったというから驚きです。2曲目のリリース前は90万だったSpotifyの月間リスナー数は、196万(2024年10月)とさらに膨れ上がり、その人気を不動のものとしています。そんなおとぎ話のようなストーリーも含め、現在のシューゲイズシーンの『顔』といえる存在がWispなのです。
Wispのサウンドの魅力は、淡く儚いボーカルと重厚なギターのハーモニーが織りなす、まるで水中へ沈んでいくようなメランコリックな世界観にあります。Wispが最も敬愛するアーティストはWhirr(InstagramのIDに使用するほどの熱狂的なファン)で、他にCocteau TwinsやDeftonesなどを挙げており、耽美なメロディとヘヴィネスの融合は彼らの影響であることがよく分かります。
ちなみにWispに代表されるヘヴィでメランコリックなシューゲイズは、ニューゲイズ(Nu-Gaze:00年代のシューゲイズ・リバイバル時に生まれた言葉ですが、近年ニューメタル×シューゲイズの文脈に再定義されつつある)と形容され、TikTokを中心に膨大な数のフォロワーを生み出しています。今やTikToKを軽くチェックすればサブスク未登録のダイヤの原石がゴロゴロと見つかるくらいです。様々なレーベルが次世代のスターを探してTikTokに目を光らせているのも納得ですね。
さてWispの経歴はこれくらいにして曲の感想へ移りましょう。オープニングを飾る#1“Pandora”は、Krausのプロデュースによるヘヴィなナンバー。起伏のある展開が生む高揚感がパンドラの箱を開けた時のようなカタルシスを演出します。#2“Your Face”、#3“Enough for you”はWhirrを連想させる陰のあるメロディと沈んでいくようなビートのハーモニーが絶品で、Wispの真骨頂というべき楽曲。一転して#4“Luna”では光が降り注ぐようなドリーミーなサウンドを披露し、作品全体に陰影のコントラストをもたらしています。続く#5“See you soon”は恋愛にフォーカスしたロマンティックな歌詞が印象的。終盤のアップテンポのパートに恋している時の幸福感がよく現れています。最後はノイジーなギターに子守唄のような安からなメロディが溶け込んだ#6“Mimi”で幕を閉じます。
TikTokやSpotifyでのバイラルヒットにより一躍注目を集め、Interscopeに見出された経緯から、産業的に生み出されたスターと揶揄されることもあるようですが、これほど素晴らしい楽曲が揃っていれば、そんな外野の声を黙らせるには充分でしょう。また幼少期にヴァイオリンやクラシックギターを学んだ後にエレキギターとベースを経験しており、現にライブでもギターを弾きながらパフォーマンスしていることから、ミュージシャンとしての才能を持っていることは明らかだと思います。
現在Wispは2023年12月の1stライブを皮切りにして、ライブ活動を熱心に行っており、2024年5月にはPanchikoの北米ツアーのサポートアクトも務めました。カバーアートの天使のようにインターネットの森に潜んでいたWispという個人が、今や大きな翼を羽ばたかせて各地へ熱狂を届けているのだと思うと非常にドラマティックですね。ライブバンドとしてさらなる成長を遂げているであろうWispを1日も早く観てみたいものです。アルバムも制作中とのことで、今後ますます人気が出ることは間違いないでしょう。日本のプロモーターの皆さんは、Wisp来日公演の実現にご尽力くださいますよう何卒よろしくお願い申し上げます。
TORIENA
圏外
TORIENA
圏外
- release date /2024-09-25
- country /Japan
- gerne /shoegaze, chiptune, hardcore-techno, gabber, breakcore
日本の音楽プロデューサーTORIENAの10thアルバム。チップチューンからハードコアテクノを渡り歩き、ゲームへの楽曲提供や海外公演もこなすTORIENAが、本作でシューゲイズ・サウンドを開拓!
特に#11“エミリー”は、極彩色の霧のようなサイケデリックなギターがMy Bloody Valentineを彷彿とさせる本格派。何も知らずたまたまMVを視聴したのもあって凄まじい衝撃でした。全編8mmフィルムで撮影された映像もシューゲイズらしい陶酔的な世界観を見事に表現しています。また#3“アンコンシャスバイアス”は鋭角なビートとメランコリックなメロディが絶妙に絡み合う中毒性の高いナンバー。#4“Dominant”はアンニュイなささやきをのせて疾駆する4つ打ちダンスチューンで、前2つに比べるとシューゲイズ度は控えめですが、ディレイをきかせたギターにシューゲイズ〜ドリームポップの血を感じる人も多いでしょう。
これらのシューゲイズ系の楽曲は、従来のダークでアグレッシブなレイブサウンドともうまく調和しており、ジャンルの垣根を超えて独自の世界観を構築している点も強みですね。
さてここからはTORIENAがどういう経緯でシューゲイズに目覚めたのかについて語っていきます。そのきっかけを探るべく過去のアルバムを遡ると、ダークなサウンドへシフトした6thアルバム“PURE FIRE”あたりからギターを導入した曲がみられますが、シューゲイズへの明確な兆候は掴めませんでした。
ところがこのインタビュー
で衝撃の事実が判明。2024年2月頃にギターがやりたくなってジャズマスとエフェクターを一式揃え、わずか1週間でシューゲイズを作曲したのだそうです。しかも2〜3週間後の秋葉原MOGRAのライブで早速披露したのだとか……それまではアコギとエレキベースを少し経験したくらいだというから、とんでもない才能ですね。
とはいえ、シューゲイズ特有のフィードバックノイズを伴う轟音ギターとハードコアテクノのハーシュノイズはかなり親和性が高いため、シューゲイズへの目覚めは突然変異ではなく、TORIENAにとってはごく自然な流れだったのかもしれません。
今後TORIENAがどういったメタモルフォーゼを遂げていくのか非常に楽しみです。さらにシューゲイズへ傾倒するのか、あるいは得意分野のレイブミュージックとの融合にチャレンジしていく可能性もありそうです。個人的にはCURVE風のインダストリアル・シューゲイズやドラムン~ブレイクゲイズ、はたまたガバ~スピードコア風の世界最高速シューゲイズにもチャレンジしてくれたらイイナ~!(言うだけならタダ)
※グラフの数値は“アンコンシャスバイアス”と“エミリー”を対象としています
Mint Field
Aprender A Ser: Extended
Mint Field
Aprender A Ser: Extended
- release date /2024-08-30
- country /Mexico
- gerne /dream-pop, shoegaze, psychedelic-rock, trip-hop
メキシコのドリームポップ/シューゲイズ・バンドの3rdアルバム“Aprender A Ser”の第2部にあたる作品。
耽美なドリームポップと仄暗いトリップホップが融合した内省的な世界観を継承しつつ、#5“Una flor sin interior”や#6“Ve hacia la ventana”では1stアルバムを彷彿とさせるサイケデリックな轟音が顔を出し、作品全体にアクセントを与えています。
スペイン語のエキゾチックな歌唱も健在で、上質なお酒のような酩酊感をもたらしてくれます。気軽に異世界へトリップしたいときにはうってつけの逸品。SlowdiveやPortishead、dearyなどがお好きな方はぜひ。
Vestige
Janis
Vestige
Janis
- release date /2024-09-06
- country /France
- gerne /metalcore, post-hardcore, shoegaze, blackgaze
フランスのモダンメタル╱シューゲイズ・バンドVestigeのデビューアルバム。
シンフォニックデスメタルバンドNarakaのメンバーであるThéodore Rondeau(Vo/Gt)、Pierre-André Krauzer(Ba)、Quentin Regnault(Dr)に新たにギタリストThomas Petitが加わり現在のラインナップとなりました。
ドロドロしたデスメタルだったNarakaから一転、本作ではメタルコア風にゴリゴリと刻むギターリフをベースに、煌めくアルペジオやアトモスフェリックなトレモロリフを巧みに加え、ポストハードコアやシューゲイズに接近したサウンドを開拓。Narakaではデス声がメインだったThéodore Rondeauは儚げなクリーンボーカルとスクリームを巧みに使い分け、楽曲にドラマティックな味わいを生み出しています。メタルとシューゲイズのクロスオーバーは、ブラックメタルやドゥームメタルの文脈で試みられることが多かっただけにVestigeのアプローチはなかなか新鮮でした。
#5“Automne Part.1”から#6“Automne Part.2 feat Neige (Alcest)”の流れは本作のハイライト。どちらもAlcestの3rdに通じる激しさと繊細さを兼ね備えた名曲かつThéodoreとNeigeの美しいボーカルを聴き比べることができる贅沢仕様。意図的にアコギを多用してAlcestに曲調を寄せているあたりにもNeige氏への深いリスペクトを感じさせますね。
シューゲイズとメタル両方のファンに刺さる魅力を備えた意欲作。まあ私に言わせれば靴を見るために頭を下げる動作はヘドバンみたいなものだし、シューゲイザーとメタラーはある意味で同族と思っていますが(笑)
101A
killing dress
101A
killing dress
- release date /2024-10-01
- country /Japan
- gerne /alternative-rock, shoegaze, post-rock, dream-pop, industrial, grunge, gothic, darkwave, post-punk, ethereal-folk
101Aは、noah(Vo/Gt), the k(Ba), Sally(Dr)からなる東京を中心に活動するロックバンド。結成20年以上のキャリアを持ち、海外ツアーやFUJI ROCK FESTIVAL '06出演の経験を持つ実力派です。最新作『killing dress』は、アルバムでもEPでもない独特のフォーマット“Not Album”としてリリースされました。
101Aの最大の魅力は、ゴシック、インダストリアル、メタル、グランジ、シューゲイズ、ポストロック、プログレ、フォークといった多彩な音楽性を融合させながら、徹底的に暗黒耽美な世界観を構築している点にあります。宝石のような煌めきや神秘的な歌声はCocteau Twins、古代の儀式めいた暗黒歌曲はDead Can Dance、毒気たっぷりのロックチューンはBauhausといったように4ADのレジェンドたちの影響を感じさせつつも、オマージュにとどまらない独自の美学を貫き、オリジナリティ溢れる作品を創造しています。
本作の開幕を飾る#1“樹海”は、切れ味鋭いリズムと幽玄な歌声が交錯するドラマティックなナンバー。続く#2“bark”では、脈動するベースラインと激情的な歌唱が毒々しくも美しい世界を描き出す。#3“Laura”は、初期Love Spirals Downwardsを連想させる神秘的なドリームポップで、noah氏の儚げな歌声は思わず涙が零れてしまうほど美しい。#4“midnight lunch”では、不穏なメロディとSally氏の技巧的なドラミングが絶妙な調和を生み出し、#5“killing dress”で一気に轟音ギターを爆発させ、そして鎮魂歌のように安らかなメロディの#6“field”が旅路を締めくくる。
101Aの集大成であると同時にさらなる深化を感じさせる傑作。暗く美しい音楽を愛する全てのリスナーにオススメしたい逸品です。
現在はCDのみのリリースですが、各種ストリーミングでの配信が待ち通しいですね。
never easy
it never gets easier
never easy
it never gets easier
- release date /2024-07-26
- country /Canada
- gerne /shoegaze, nu-metal, slowcore, grunge, alternative-rock,
カナダ発シューゲイズ・バンドのデビューアルバム。ギター、ベース、ボーカル担当のuglyと、ドラム、ボーカル担当のnumbを中心に結成。
本作はニューメタルの影響を受けたヘヴィなシューゲイズサウンドが特徴で、ダウンテンポでじっくりとメランコリーを紡ぐスタイルにはDusterのようなスロウコアの影響も感じられ、どっぷり沈みたい時のお供にぴったりです。
#9“are you happy”でブリザードのようなギターノイズで聴く者を凍りつかせ、続く#10“you'd be home now”でクリーンボーカルとスクリームが入り乱れる流れはクライマックスにふさわしい名展開。
バンドを知るきっかけだったシングル曲“choke”が収録されていないのは少々残念ですが、ポテンシャルの高さはかなりのもの。現在ではライブ活動も積極的に行っているようで、今後の活躍が非常に楽しみです。
Threaded
The Place You Know
Threaded
The Place You Know
- release date /2024-06-27
- country /US
- gerne /shoegaze, alternative-rock, grunge, emo
USピッツバーグのシューゲイズ・バンドの2ndEP。
TurnoverにTeenage Wrist、Hundredth……といったようにエモとシューゲイズの相性の良さは歴史が証明していますが、このバンドも例外ではなく。ヘヴィなサウンドに甘く切ない歌声が見事に調和しています。
Whirrに通じる凍てつくムードを持つ#1“Denton”と#2“Static”に心を撃ち抜かれました。今後の飛躍に期待を込めてランクイン。
Blóð
Mara
Blóð
Mara
- release date /2024-06-20
- country /France
- gerne /blackened-doom, doom-metal, sludge, doomgaze
フランスのブラッケンドドゥームメタル・デュオの3rdアルバム。アイスランド語で血(Blood)を意味するBlóðは、全ての楽器を担当するUlrich Wegrich (Otargos、元 Regarde Les Hommes Tomber)とボーカリストのAnna Wegrichにより2018年に結成。
煩悩の化身とされる悪魔マーラの名を冠した本作は、これまでのスロウで陰鬱なサウンドを継承しながら、ブラックメタル風のジリジリとしたノイズを放つギターと、波のようにうねる低音が催眠的なムードを演出し、ドゥームゲイズとしての側面も垣間見える作品となっています。
少女たちのシャーマニックな合唱から、一気にドス黒い轟音が放たれる#1“Gehenna”で文字通り地獄の底へご招待。脳を揺らす轟音、鼓膜を裂くノイズ、黒いヘドロのごときヘヴィネスが延々と注ぎ込まれ、完全な闇に閉じ込められるような感覚に陥ることでしょう。ボーカリストのAnnaは魔女のような妖しい歌声と悲鳴のようなスクリーム、苦悶に満ちたうめき声を使い分け、ますます気が狂いそう……暗黒音楽好きには最高のご褒美です!
Presence of SoulやSinistro、Amenraなどの暗黒系ドゥームゲイズ〜ポストメタル好きに超おすすめ!ぜひ闇深い轟音と絶望感に打ちのめされましょう。さぁ皆もレッツ埋葬!
ちなみにBlóðはライブも行っており、2023年にはHellfestにも参加したそうです。いつか日本に来てPresence of Soulと対バンしておくれ~!
Computer Kill
Computer Kill
Computer Kill
Computer Kill
- release date /2024-04-12
- country /US
- gerne /darkwave, post-punk, dream-pop, shoegaze
USメリーランドのポストパンク/ダークウェイヴ・バンドによるデビューEP。
キラキラしたギターとシンセやロマンティックな歌声はHouse of Harmを彷彿とさせますが、随所に轟音ギターを炸裂させたり、リバーブの海に沈めてみたりと、かなりシューゲイズ度は高め。Male TearsやNuovo Testamentoを連想させるミラーボール輝くゴシック・ディスコナンバー#1“Trouble”、ノイジーな轟音ギターをぶちまけ爆走する#2“Not Nomal”、M83風のシンセワークが光るダンスチューン#3“Haunted”など、バンド名どおりキラーチューンが満載です。
デビュー作でこの完成度とは恐るべし。ゴス、シューゲイズのファンはもちろん、V系が好きな人にもオススメ!ライブも積極的に行っており、2024年4月にはCD GhostのOPも務めたそうです。相性120%の最高の組み合わせじゃん……! 遠くない未来にHANDS AND MOMENTさんが日本に呼んでくれると信じてます。
Cold Gawd
I'll Drown On This Earth
Cold Gawd
I'll Drown On This Earth
- release date /2024-08-30
- country /US
- gerne /shoegaze, post-hardcore, post-rock, slowcore, alternative-rock
USカリフォルニアのシューゲイズ・バンドの3rdアルバム。名門Dais Recordsの所属となってから2作目となります。
Cold Gawdは、2020年にMatt Wainwrightのソロプロジェクトとしてスタート。これまでは彼が全てのパートを自ら演奏していましたが、本作からバンド・メンバーが制作に加わったことでサウンドに肉体的な質感やダイナミズムが生まれ、一段とクオリティがアップしています。
Matt Wainwrightの咆哮で幕を開ける#1"Gorgeous"で新生Cold Gawdの世界に一気に引き込まれる。続く#2"Portland"〜#5"Malibu Beach House"のブルドーザーのごときヘヴィなギターと情感豊かな歌声の対比が生む美しさはCold Gawdの真骨頂。特にリードギターとボーカルのハーモニーが醸し出すメランコリックな味わいは絶品で、最も影響を受けた作品にWhirrの"Feels Like You"を挙げているのも納得です。目を閉じて聴くと、葬送曲が流れる中で墓穴の底に横たわり、生きながらに埋葬されるような心地すらします。後半に夢見心地な曲を配置して天国へ導く流れもお見事。
本年度のメランコリック・シューゲイズを代表する傑作の1つ。WhirrやLife on Venus、Newmoonなどがお好きな方はぜひ。
deer death
Fractured
deer death
Fractured
- release date /2024-08-09
- country /US
- gerne /shoegaze, alternative-rock, grunge, dream-pop
シカの快進撃は止まらない!謎の覆面シューゲイズ・アーティストdeer deathが今年3作目となるアルバムをリリース。デモ集や編集盤を含めるとなんと5作目となります。あのNovulentすら凌ぐレベルの多作っぷりでファンとしては嬉しい悲鳴。
あらためてdeer deathの魅力を挙げますと、非常にノイジーでありながら随所にエーテル的な美しさが漏れ出しているギターは外せません。前作Burden(Nextimeとのコラボ作)と比べると違いがより実感できると思います。またシューゲイズ系では珍しい武骨な歌声もウィスパーボイスでは得られない深い哀愁を醸し出していてdeer deathならではの強烈な武器となっています。
木漏れ日のような淡いアルペジオと哀愁たっぷりのメロディの対比で魅せる#1"Nothing By Myself"、苦悶に満ちたスクリームがアクセントを添える#2"A Letter"、胸をかきむしりたくなるほどの慟哭が襲う#3"Kill the Love"など名曲のオンパレード。TikTok発のシューゲイズアーティストの中でも今やNovulentやWispに負けないくらい気に入っています。
本作の後にもシングルを1曲公開しており、またしても今年中にアルバムがリリースされる可能性もありそうです。deer deathからますます目が離せませんね!
Aythis
Celestial Exile
Aythis
Celestial Exile
- release date /2024-06-02
- country /Netherlands
- gerne /ethereal-wave, doom-metal, post-rock, dream-pop, shoegaze, darkwave, neoclassical, ambient
フランスの暗黒ドゥームメタル・バンドLethian DreamsやRemenbranceのボーカリストとして名を知られるCarline Van Roosのソロプロジェクト。今回はダブルアルバムでのリリースとなります。こちらで紹介する“Celestial Exile”は前作のエセリアルウェイヴ〜ドリームポップ路線に加え、従来の神秘的なネオクラシカル/ダークウェイヴ、Lethian Dreams由来のアトモスフェリックなドゥームメタルがバランスよく配分され、Aythisにまつわる音楽性を一度に網羅できる作品となっています。
Carline Van Roosの氷の精ごとき儚く美しいボーカルとはらはらと舞う淡雪のようなギター、冷気をまとうシンセは本作でも健在で、目を閉じて聴けば意識がたちまち氷点下の銀世界へと誘われることでしょう。真冬に聴こうものならシャイニングのジャック・ニコルソンよろしくカチカチの氷漬けになりかねないため、しっかり防寒対策をして味わうことをオススメします。
私のイチオシは前作のエセリアルウェイヴ路線を継承した#1"The Endless"と、凍てつくような哀しみをたたえたドゥームメタル~ポストロックの#3"Moonsong"。Lethian Dreams信者なのでこういうヘヴィでスロウな曲には否が応でも身体(首)が疼いてしまうのよね。
なおダブルアルバムのもう一方の"Lost Lighthouse"は本作をベースに異なるアレンジを施したバージョンとなっているため、ぜひ聴き比べてみることをオススメします。
Silentways
Aeon
Silentways
Aeon
- release date /2024-03-01
- country /Italy
- gerne /darkwave, coldwave, post-punk, gothic-rock, dream-pop
イタリアのダークウェイヴ・トリオの2ndアルバム。前作Silentwaysをリリース後に一度バンドは解散。2022年にトリオ編成で再結成してから初となるアルバムです。
ダークウェイブとドリームポップのクロスオーバーで魅せた前作から、さらにダークさを深化させコールドウェイヴの要素を注入。無機質なビートを刻むドラムマシンと、心拍のようにズンズンと脈動するベースがあいまって、暗く冷たい洞窟の中をひたすら突き進むようなサウンドになっています。その変化について彼らは最近お気に入りのTwin Tribesの影響があったと語っています。
いっぽうオーロラのように揺らめくギターやAnnalisa Lynchの幽玄な美声は健在なので、これまで通りドリームポップ目線でも美味しくいただけるのが強みですね。The KVBやSeasurfer、Magic Wandsといい、やはりゴシックの系譜とドリームポップは相性が良いと再確認。
なお本作では様々な『愛の認識』を解釈することをテーマにしており、中でも1stシングルの"A Red Thread"は、運命の赤い糸が紡ぐ超越的な愛の形にフォーカスしているようです。歌詞を読みながら聴いていたら「これ実質スティルインラブのテーマ曲では?」と私のオタク回路が暴走しまくったのでした(笑)
Novulent
Vol. 2
Novulent
Vol. 2
- release date /2024-08-24
- country /US
- gerne /shoegaze, slowcore, grunge, nu-metal, emorap
前作Secret Lettersから約5ヶ月にして早くもNovulentのニューアルバムが到着!
再生してびっくり、音がめちゃくちゃ良くなってるじゃんよ……!ローファイなサウンドだったVol. 1から1年と経っていないのにこの進化は何事でしょう。特にギターの厚みが格段にアップしており、これまでで最もヘヴィな仕上がりになっています。#4"Closure"の凍てつくようなメロディと嵐の如き轟音が生み出すカタルシスは彼が敬愛するWhirrに匹敵するレベルといっても過言じゃないでしょう。加えて曲の構成が以前よりしっかり練られていて、Vol. 1の頃に感じた物足りなさがだいぶ解消されています。文句なしにNovulentの最高傑作です。
月間リスナー数も2024年8月時点で2,93Mとさらに増加し、とうとうSlowdive(2,66M)を超え、Cocteau Twins(3,05M)をも上回りそうな勢いです。これまではTikTokのアルゴリズムが生み出したスターといった捉え方をされる向きも少なからずあったでしょうが、サウンドプロダクションが大幅に強化されたことで、名実ともに現在のシューゲイズ界を代表する存在になったことは間違いありません。バンド編成でVol. 2のライブツアーを行うようなので、来日にも期待したいところですね。NewDadがあっさり完売したのを受けて、虎視眈々と狙っている日本のプロモーターもきっといるんじゃないでしょうか。その筋の方、来年あたりいかがですか?
余談ですが、#3"Skin To Skin"のイントロで「end here…」という音声が入るのですが、同じものがDeadlyswcctの"perpetual senescence"にも使われていて、気になって夜も寝られません。もし元ネタをご存知の方がいらっしゃいましたら、フッターのXかInstagramからお気軽にご連絡くださいませ。
DIIV
Frog In Boiling Water
DIIV
Frog In Boiling Water
- release date /2024-05-24
- country /US
- gerne /shoegaze, alternative-rock, grunge, dream-pop
NYのシューゲイズ・バンドの4thアルバム。ヘヴィ路線へ舵を切った"Deceiver"から5年ぶりとなる新作ですが、またしてもじっとりと暗いムードが充満しています。キラキラしていた1stアルバム"Oshin"に比べたらリゾートビーチから熱帯雨林へお引越ししたんかってくらいのジメジメっぷり。
前作より轟音度は控えめなため、人によっては退屈に感じるかもしれませんが、丁寧に紡がれる雨情めいたメランコリアはどっぷり沈みたい時にうってつけ。私はむしろ前作より気に入っています。#3"Rainning On Your Pillow"、#4"Frog In Boiling Water"、#7"Somber The Drums"などピックアップしたい曲が目白押し。
ちなみにアルバムタイトルの"Frog In Boiling Water"は、ダニエル・クインの"The Story of B"で言及された「沸騰したお湯にカエルを落とすと必死になって這い上がろうとするが、ゆっくりと温められると気づかず茹でガエルとなってしまう」という寓話が元になっています。
資本主義の生み出す格差を仕方ないと受け入れ、SNSでは自己の正義観の赴くまま真偽も確かめず誹謗中傷に加担し、アルゴリズムの奴隷となり与えられた享楽を自堕落にむさぼる人々のなんと多いこと。危機感を抱かずに漫然と過ごしていると、いつの間にか我々も沸騰するディストピアの中で茹でガエルになってしまうのかもしれません。カエル……じゃなくてニール・ディランディのように世界に銃口を突きつけ「よお、こんな世界で満足か?俺は嫌だね」と言い放ち続けたいものです。
Deadlyswcct
Sapphire Sorrow
Deadlyswcct
Sapphire Sorrow
- release date /2024-08-02
- country /US
- gerne /nu-metal, shoegaze, alternative-rock, grunge
USオクラホマのシンガーソングライターashlyn perezによるソロプロジェクト。
前作Eternal lamentから約5ヶ月という短いスパンで公開された2ndアルバムは、ゲストボーカリスト数名を迎えてEvanescenceやDeftones、Kornなどに通じるニューメタル要素を増強。シューゲイズ度は若干薄れたものの、メランコリックなムードはいまだ健在。
ashlynのアンニュイな歌声とゲストボーカルのクリーン&スクリームが絡み合う#1"Torn remains"がお気に入り。初期EvanescenceやLacuna Coilの信者なのでこういう作風は大歓迎です。
Graywave
Dancing in the Dust
Graywave
Dancing in the Dust
- release date /2024-05-31
- country /UK
- gerne /shoegaze, alternative-rock, grunge, gothic-rock, gothic-metal, post-punk, darkwave
UKバーミンガムのシューゲイズ・バンドによる3rdEP。
Graywaveは、Jess Webberleyのソロプロジェクトとしてスタートし、現在はZak Jenkins (drums), Oliver Beardmore (guitar), Joe Galkowski (Bass) が加わり4人編成のバンドとして活動中。
クラシックなドリームポップ〜シューゲイズだったデビューEPから、ヘヴィ路線にシフトした2ndEPの時点でその片鱗はありましたが、ここに来てトリップホップ、ダークウェイヴ、ヘヴィメタルなどの要素を取り入れ、ダークな感性が一気に大爆発。
Chelsea WolfeとEmma Ruth Rundleに大きなインスピレーションを受けたというJess Webberleyのボーカルは、毒気を帯びた低音と幽玄な美声を巧みに使い分け、ダークなサウンドに深みを与えています。ギターはヘヴィで激しくうねりつつも、アメジストのごとき煌めきでコーティングされ、しっかりシューゲイズの血を感じさせてくれます。メロディも単に美しいだけでなく妖艶かつ不穏で、インディーロック〜シューゲイズファンだけでなく、血に飢えたヘッドバンガーや闇を愛するゴスたちの心をも捕らえることでしょう。さすがType O Negativeをお気に入りに挙げるだけありますね。
イチオシは#2"Blur Into One"。ゴリゴリにヘヴィでありながらSlowdiveやCocteau Twinsの耽美性もあわせ持つ「これぞダークシューゲイズの真骨頂」というべき名曲。本年度ベストチューン筆頭候補の1つ。
#6"Dancing in the Dust"ではポストパンク〜ダークウェイヴ風のダンスチューンを披露。まるでCHVRCHESやPale Wavesを超ヘヴィにしたかのような新たな一面を見せてくれます。
最近ではUKのゴシック系シューゲイズ・デュオZetraの新曲にバッキングボーカルとして参加したり、UK・EUのツアーエージェンシーと契約するなど活躍の場をさらに広げているようです。また、数年のうちにフルアルバムを完成させたいと語っており、今後が非常に楽しみですね。Chelsea WolfeやKing Woman、Slow Crushなどがお好きな方は必ずチェックされたし。
Iress
Sleep Now, In Reverse
Iress
Sleep Now, In Reverse
- release date /2024-07-26
- country /US
- gerne /shoegaze, doomgaze, post-rock, dream-pop, slowcore
LAのポストメタル/ドゥームゲイズ・バンドの3rdアルバム。
前作"Flaw"から格段にサウンドが洗練され、ヘヴィさはそのままに繊細なパートの解像度が向上。"Adele of Doom"と謳われるMichelle Malleyの美声はこれまで以上に眩い輝きを放つようになりました。もはやChelsea WolfeやHeike Langhansといった名だたる暗黒系ボーカリストにも決して引けを取らないでしょう。
Iressらしい幽玄美とヘヴィネスの対比で魅せる#1"Falling"、悲痛な絶唱が魂を揺さぶる#3"Mercy"、#6"In Reverse"、ドゥームメタルの側面が強く出たヘドバン必至の葬送曲#8"Knell Mera"など名曲多数。間違いなく彼らの最高傑作だと思います。ドゥームゲイズオタクは必ず抑えておきましょう。
Twin Tribes
Pendulum
Twin Tribes
Pendulum
- release date /2024-01-26
- country /US
- gerne /darkwave, post-punk, gothic-rock, dream-pop, synthwave
USテキサスのダークウェイヴ/ポストパンク・デュオの3rdアルバム。
ゴス好きの間で高い知名度を誇る彼らですが、ドリームポップ/シューゲイズ専門サイトで取り上げる理由はズバリ、彼らの武器の1つである宝石のように輝くギターサウンドにあります。かつてのDIIVを彷彿させるほどにキラキラと煌めいており、さらにキラキラシンセまで加わってまるでミラーボールのような輝きを放っています。
その背景にはゴシックの重鎮でありながらドリームポップとしても評価されるThe Cureがいることは間違いないでしょう。インタビューでもThe Cureの"Seventeen Seconds"とMinistryの"With Sympathy"に深い影響を受けたと語られています。実に納得のチョイス。
もちろんTwin Tribesの主軸はダークウェイヴ/ポストパンクであることは百も承知ですが、同じカテゴリーのDrab MajestyやHouse of Harmがドリームポップ〜シューゲイズファンの間で親しまれているのに負けじとキラキラしているTwin Tribesが仲間外れになっているだなんて、私が黙っちゃいません。
ドリームポップやシューゲイズのウィスパーヴォイスに慣れているリスナーの中には、低音で陰鬱なゴシックヴォイスが苦手という方もいるかもしれませんが、本作ではかつてないほどメロディアスに歌っているためご安心を。特に#7"Cauldron of Thorns"のエモーショナルな歌唱にはきっと胸が熱くなるはず。ボーカルのLuis Navarroも高い声の歌唱は初挑戦だったと語っています。
またポストパンク色が強かった前作よりエレクトロニックなサウンドになり、シンセも増量されているためDais Recordsがお好きな方にも超おすすめ。Twin Tribesひいてはゴスの入門用としても最適なので、この機会にぜひお試しあれ。
なお海外の記事によるとダークウェイヴが非常に流行しているとの噂。私の観測する限りだと日本はほぼ無風なんですが、このギャップをどうにかして壊したいし、盛り上げたい。そしていつの日か洋邦のダークウェイヴを一堂に集めたフェスが日本で開催されれば本望。その為ならいくらでも応援するのですけどね。こうなったら私が石油を掘り当てるしかないのか……!(無理)
私と同じ想いを抱いているダークウェイヴファンは、Drab Majestyの奇跡の来日公演を成し遂げたHANDS AND MOMENTさんへどしどし投資することをおすすめします。 まずは9月開催のZACK ZACK ZACK来日公演をソールドさせちゃいましょ!
Ghostly Kisses
Darkroom
Ghostly Kisses
Darkroom
- release date /2024-05-17
- country /Canada
- gerne /dream-pop, ethereal-wave, newage, folk, synth-pop, trip-hop
カナダのドリームポップ・デュオの2ndアルバム。
1stアルバム"Heaven, Wait"の後、彼らはウェブサイトにBox of Secretsというファンが匿名でメッセージを送信できる機能を開設。そこに独白された様々なエピソードが今作のインスピレーションの源となっています。これによりGhostly Kissesのサウンドはいっそう幅と深みを増し、ダークな中にも万華鏡のような煌めきが感じられるようになりました。その結果、わずかに明るくポップな曲が増えたけれど個人的には許容範囲。
しかし前作よりリズムトラックの主張が強めな点は気になるところ。音数を絞ったアレンジが歌声に合っていると思っていただけに少々残念。とはいえMargaux Sauvéの歌声は依然として素晴らしく、#7"On & Off"のような落ち着いたムードの曲でその美しさは一段と輝きを増しています。これぞGhostly Kissesの真骨頂です。#3"Golden Eyes"でのグレゴリオ聖歌風のコーラスを取り入れた試みも好印象。まあ結果的にDeleriumやGlegorianに寄っちゃうのはご愛嬌かな笑
さてそんなGhostly Kissesですが、昨年に続き来日公演も決定。朝霧JAM+単独公演と大躍進です。
前回の初来日はMargaux Sauvéのヴァイオリンをフィーチャーしたアレンジが非常に素晴らしく、音源以上の感動をもたらしてくれました。ファンはぜひお見逃しなく!
Softcult
Heaven
Softcult
Heaven
- release date /2024-05-24
- country /Canada
- gerne /shoegaze, alternative-rock, dream-pop, grunge, indie-rock
カナダのグランジ/シューゲイズ・デュオの通算4作目となるEP。
"Heaven"というタイトル通り、天国を連想させる幻想美をリバーブの海に溶け込ませたシューゲイズ・ナンバー#1"Haunt You Still"を筆頭にこれまでで最もドリーミーな仕上がり。毎度ながらどの曲もクオリティが高く、シューゲイズ/ドリームポップ好きはきっとメロメロになることでしょう。
その一方でヘヴィさやダークさがだいぶ影を潜めてしまったのが残念。私のような生粋の陰者には少々目に眩しいのですよ……これが当サイトで扱えるギリギリのラインかもしれません。まぁダークさにこだわらずとも充分名作なんですけどね。
「もっとダークじゃなきゃヤダー!」という方には、BWBBやPerfect Blueが収録されたYear Of The Snakeをおすすめします。
Emilija Karosaitė
Aprašykime dienas
Emilija Karosaitė
Aprašykime dienas
- release date /2024-03-22
- country /Lithuania
- gerne /shoegaze, alternative-rock, dream-pop, industrial, psychedelic-rock, folk
Emilija Karosaitėは、リトアニア音楽演劇アカデミーでコンテンポラリーダンスを専門に学び、音楽クリエイターとしても活動する異色の経歴を持つアーティスト。
インスト中心の小曲と4つの楽曲からなる組曲形式のデビューアルバムは、クラシック、民族音楽、シューゲイズ 、インダストリアルなど様々な要素が混じり合い、“オルタナ”という安易な括りでは表せない非凡な才能に満ちています。
繊細さと不穏さをあわせ持ちながら、時にひりつくようなヘヴィな轟音を放つサウンドに、リトアニア語のエキゾチックな響きが魔術的なムードを演出。Mazzy StarからWispといったメランコリックなドリームポップ〜シューゲイズの系譜、あるいは一種のフォーク系プログレとしても楽しめるかと思います。
しかし彼女自身は「特定のジャンルに縛られず、幅広いサウンドに興味があるため、リスナーによって全く違った印象を持つだろう」と語っているため、私の意見はあくまで参考程度に。この作品からどんな旨みを見出すかはあなた次第!
ちなみにタイトルトラックのMVでは彼女の得意なダンスも拝めます。ダリオ・アルジェント風の極彩色のライティングの他、エクソシストのオマージュもあるので古参のホラー映画ファンはじっくり觀ることをおすすめします。
deer death
Demos & Throwaways
deer death
Demos & Throwaways
- release date /2024-05-24
- country /US
- gerne /shoegaze, alternative-rock, grunge
謎の覆面シューゲイズ・アーティストによる編集盤。Demos & Throwawaysという投げやりなタイトルが付いていますが、中身はフルアルバムと遜色ないクオリティ。
グランジ由来のノイジーなギターと哀愁漂うしゃがれ声というスタイルはそのままに、#2"Flesh Jail"では艶のある高音ヴォイスを披露するなど様々な試行錯誤が見て取れます。
#5"Blind To You"はdeer deathにしては珍しいアップテンポなナンバー。力強いビートと泣き泣きのメロディにかつてのSentencedを重ねずにはいられません。
その他も名曲揃いでこれまでの作品の中で1番気に入っています。これで2軍落ち扱いだなんて少々信じられませんね。
そんなdeer deathですが、なんとdeer death & Nextime名義で今年2作目となるアルバムをリリース。彼の創作意欲は衰えることを知らないようです。日本の鹿ブームに負けじと頑張ってほしいですね(笑)
Kælan Mikla & Bardi Johannsson
The Phantom Carriage
Kælan Mikla & Bardi Johannsson
The Phantom Carriage
- release date /2024-04-19
- country /Iceland
- gerne /darkwave, gothic, neo-classical, dark-ambient, ethereal-wave, soundtrack
アイスランドのポストパンク/ダークウェイブ・トリオKælan Miklaと同郷のアーティストBardi Johannssonによって、1921年公開のスウェーデンの無声映画"The Phantom Carriage"のために新たに制作されたサウンドトラック。2023年のトランシルバニア国際映画祭で教会にて上映され、両者による生演奏も披露されたそうです。
映画は未視聴ですが、暗く冷たいシンセと神秘的な女性ボーカルが織りなすサウンドは古典ゴシックホラーらしい味わいで非常に好み。
地鳴りのような重いビートと荘厳な女性コーラスの対比が美しい"The Burden of Love and Death"がマイベスト。今は亡きCold Meat Industryを思い出して胸が熱くなります。
4ADのアーティストやネオクラシカル/ダークウェイヴ、インダストリアルゴシックなどがお好きな方はぜひ。日本で上映される日を祈りつつ聴き込みましょう。
雪国
pothos
雪国
pothos
- release date /2024-06-05
- country /Japan
- gerne /indie-rock, slowcore, post-rock, shoegaze, dream-pop, folk
川端康成の代表作の名を冠する東京の3ピース・インディーロック・バンドのデビューアルバム。
彼らの最大の武器は侘び寂びを感じさせる美しいメロディ。ポストロックやスロウコア、シューゲイズ、フォークなど様々な要素が絡み合って生み出された叙情美に雪の情景を重ねずにはいられません。特に繊細なトーンのアルペジオや透明感のある切ない歌声がいっそう雪のイメージを強く印象付けます。
朝日をいっぱいに反射して眩く輝く雪、鉛色の空からはらはらと舞う雪片、荒涼とした原野に荒れ狂う吹雪、目の眩むほど広大な純白の雪原……1時間強、全15曲によって雪国の美しさをすべて網羅せんばかりの濃密な世界観が描かれています。
ラジオのインタビューによると彼らは特定のジャンルやバンドを目標にしているわけではなく、自分たちが好む音を紡いで“雪国に抱く憧れ”を表現しているそうです。
私は彼らの繊細な叙情美からスピッツやきのこ帝国、羊文学などの影響が少なからずありそうだとにらみましたが、WhirrやKauanを連想させる凍気も感じられ、その筋のシューゲイズ〜ポストロックを好む人にもぶっ刺さることでしょう(つまり私)。
そんな私が選ぶベストソングは#1"本当の静寂"。しっとり歌い上げる導入から、一気にアルバム随一のダークさを解き放つ流れが狂おしいほど好きなんですが、あっさり終わってしまうが少々心残り。密かにロングバージョンが存在してほしいと願わずにはいられません。
また、アルバム全体がひと繋ぎの物語のようになっているため、必ず一度は曲順通りに聴くことをオススメします。中でも静と動の対比で揺さぶる#6"ステラ"〜#7"夕立"、幽玄美漂う#8"消失点"、ドラマティックな展開で魅せる#9"真夜中"の一連の流れは特に気に入っています。そんな感じで、デビューアルバムにしてすでに名曲の大渋滞。このままいくと次作も凄まじいことになりそうで戦々恐々です。
またMVやグッズの制作に加え、自主レーベルで販売まで手がけるDIY精神もアッパレ。将来的には自主レーベルから他のバンドのリリースもしたいとのこと。そんなに手広くやっていて大変そうと思いきや、ChatGPTをうまいこと活用しているそうな。やはりAI……! AIはすべてを解決する……!
なおメンバーは現在大学生で就職活動の真っ只中ですが、ラジオで「今後もバンド活動を続ける以外の選択肢はない」と力強く宣言していたことをご報告いたします。今後がますます楽しみですね!
Swirlpool
Distant Echoes
Swirlpool
Distant Echoes
- release date /2024-03-22
- country /Germany
- gerne /shoegaze, dream-pop, post-punk, alternative-rock, post-rock
ドイツのレーゲンスブルク発シューゲイズ/ドリームポップ・バンドのデビューアルバム。MIXはRideのMark Gardener。
Slowdiveといった90年代を代表するシューゲイズ・サウンドを継承しつつ、幽玄なドリームポップから硬派なポストパンクまで自在に乗りこなすアレンジの幅広さが気に入っています。
マイベストはポストロックのダイナミズムを感じさせる#2"Reimagine"。後半のドラマティックな轟音パートに胸が熱くなります。
#3"Breathing Visions"や#6"Caught In a Dream"の退廃的で流麗なメロディと気だるげなボーカルのマッチングはゴシックロック好きにも刺さりそう(私だ)。
余談ですが、彼らの活動拠点であるレーゲンスブルクは10年ほど前に足を運んだ際に大聖堂の美しさに雷に打たれるような感銘を覚えて以来、ドイツで一番好きな街の1つだったりします。そんな思い入れもあるせいで余計に推したくなりますね(笑)
Vuur & Zijde
Boezem
Vuur & Zijde
Boezem
- release date /2024-07-12
- country /Netherlands
- gerne /blackgaze, post-blackmetal, post-punk, shoegaze, dream-pop, ethereal-folk
オランダのポストパンク/ポストブラックメタル・バンドのデビューアルバム。
オランダ語で“火と絹”という意味のVuur & Zijdeは、LasterやNusquama、Terzij de Hordeといったオランダのブラックメタルバンドのメンバーを中心に結成。
ポストパンクとブラックメタルが交錯する激しいサウンドにのせてオランダ語とフリジア語を操る女性シンガーFamkeの歌声が妖しく舞い踊る……流石Prophecy Productionsとサインするだけあってクセが強い!だがそれがいい!!!
民族調の歌唱やドリーミーなアルペジオを耳にするに、インスピレーションの源としてDead Can DanceやCocteau Twinsを挙げているのも納得です。両者は元々ポストパンクから神秘的な音楽性を開花させていったわけですから、この先Vuur & Zijdeがどんなメタモルフォーゼを遂げていくのか興味津々です。
なお元The GatheringのAnneke van Giersbergenを擁するVuurとは関係がないもよう。勘違いした人は正直に挙手!
iVy
幽泳プログラム
iVy
幽泳プログラム
- release date /2024-07-10
- country /Japan
- gerne /dream-pop, shoegaze, alternative-rock, electro-pop
fuki(Gt/Vo)、pupu(Key/Vo)によって結成されたドリームポップ・デュオのデビューEP。
私がiVyの存在を知ったのは2023年の末くらい。たまたまTwitterでフォローして頂き、新しく公開された『クラスルーム』という曲を試聴したところ、その夢心地でふわふわとした(同時にちょっと物憂げでもある)世界観にたちまち魅了されました。
翌年3月のiVyとピンキーポップの共催による自主企画『ゆめのつづき』でようやく初めてライブを拝見する事が叶いました。少女性をテーマに可愛らしくデコレーションされたラウンジではお菓子や小物などのショップが並び、2階のフロアではバンドの演奏が楽しめるというユニークな企画でサブカルの街中野にぴったりの濃厚な体験となりました。
翌月のワセレコ主催のイベントでは宇宙ネコ子、Healthcare and medical、Moon In Juneという豪華なラインナップの中、多くのオーディエンスの前で堂々としたパフォーマンスを披露。演奏が終わって客電が付いた時に「すごく良かったね、今のバンド」という声があちこちから聞こえてきたのは今も強く印象に残っています。そのライブのMCで「夏頃にEPが出ます」と発表され、それはもうワクワクしたものです……!
当時は音源がSoundCloudとYouTubeでしか聴けず、少々歯がゆい思いをしていたのですが、2024.07.10に待望の1stEPがサブスクでリリースとあって、0時になった瞬間に即ダウンロードしたのは言うまでもなく……何か食べログによくある一人語りみたいになっちゃいましたが、それだけ私にとって思い入れのあるアーティストということです。
前置きはこの辺にして、iVyの音楽性について語っていきましょう。iVyはドリームポップやオルタナティブロックをベースにキラキラした音をたっぷり散りばめて、子ども時代の空想のような光に満ちた世界を描いています。しかし、よく味わうと裏にほんのりと翳が潜んでいて、楽しい夢から覚めた後の喪失感だったり、幸せな結末の童話に隠された真実を知ったときのような不穏な心地もあるところに強く惹かれました。
#1"Hello phila!"が良い例で、第一印象は真夏の太陽みたいなキラキラギター盛りだくさんのドリームポップでしたが、歌詞はどこか自罰的でじっとりとした暗さがあり、聴き込むにつれその眩さが日焼けのようなちりちりした痛みに変わってくるから不思議。
#2"クラスルーム"はライブの締めに演奏される事が多いキラーチューン。何者にもなれない僕/私の焦燥感がメランコリックなメロディとともに描かれています。アウトロでワルツ調になるところが狂おしいほど好き。
#4"kirakirakiller"はLetting Up Despite Great Faultsや後期スーパーカーを連想させるポップなダンスチューン。キラキラピコピコと楽しげに踊る鍵盤が心をウキウキされてくれます。kirakira“killer”とこっそりタイトルに毒気を忍ばせるセンスも素晴らしい。
ある程度聴き込んだら歌詞にも注目してみてください。きっとウィットに富んだフレーズの数々に舌を巻くことでしょう。特にkirakirakillerは唯一無二のセンスが爆発していてオススメ。“バニーババアは倒したからおしまい!”や“着ぐるみ大量廃棄処分Day”なんて私の頭からは一生かかっても出てこないです。非常に奇抜でいてメロディになめらかにフィットしているんだからもう脱帽ですよ。
手描きのかわいいキャラクターをフィーチャーしたMVやアートワークといい、TikTok界で一気にバズりそうなポテンシャルを感じずにはいられません。現に音源リリース前からじわじわと注目度が上がっているようで、最近はTLで頻繁に名前を見かけるようになりました。こういうのって自分のことのように嬉しいのよね。
8月7日の渋谷クアトロでのイベントでは乙女絵画、Khaki、downtという勢いのあるアーティストたちとの対バンを控え、ますますファンが増えることは間違いないでしょう。この調子でいくとバズるのは時間の問題かもしれませんね。そんなワケでiVyのお二方はぜひTikTokをやってください。いつやるか?今でしょ!(古)
7月20日には幽泳プログラムにSide Bの6曲を追加した『幽泳プログラム / ぼくらのおまじない』がSolitude Solutionsから発売されました。こちらはカセットまたはMD(ダウンロードコード付き)でのリリースとなっています。私はSide Bのクラスルーム(教室の外編)が気になって仕方ありません!もう買うしかないっショ!!!
幽泳プログラム / ぼくらのおまじない - ダウンロードページ
【アートワークに書かれたメッセージについて】
気になっている人も多そうなアートワーク上の手書き文字を解読してみました。
even if the moon is chipped it's just beautiful
your whirlpool is shining
sleep tight
sleep tight
“月は欠けていても美しい”
なんだか救われる言葉ですね。
Glassing
From the Other Side of the Mirror
Glassing
From the Other Side of the Mirror
- release date /2024-04-26
- country /US
- gerne /post-hardcore, post-metal, doom-metal, blackgaze, shoegaze
USテキサス州オースティンのポストハードコア・バンドの4thアルバム。名門Pelagic Recordsよりリリース。
ポストハードコアの文脈にブラックゲイズ、ドゥームメタルなど様々なヘヴィミュージックを接続。全てをすり潰さんとする激重サウンドに静と動の激しい往来も加わり、うっかりするとズタズタに引き裂かれてしまいそうな緊張感がみなぎっています。
ギターはヘヴィなだけでなくブリザードのような煌めきも感じられ、物憂げなクリーンボーカルが醸し出す寂寞感も手伝って、シューゲイズ耳でも割と美味しくいただけるかと思います。
前作からクリーンボーカルのパートが増えて聴きやすくなっていますので、この機会にぜひお試しあれ。
Novulent
Secret Letters
Novulent
Secret Letters
- release date /2024-03-29
- country /US
- gerne /shoegaze, slowcore, grunge, nu-metal, emorap
TikTok発新星シューゲイズアクトの新作EP。本人はアルバムって言ってますが、まあどっちでも良いや(笑)
さて今作も相変わらずヘヴィでメランコリックなシューゲイズではありますが、ボーカルの表現力が増し、メロディのフックも強化されています。
Whirrクラスの冷気を放つヘヴィシューゲイズ#2"Special"、ツインボーカルがロマンティックに溶け合うvvhereareweとのコラボ曲#3"used goods"が特にお気に入り。
今作のリリース時点で1.47MだったSpotifyの月間リスナー数は今や2.42M(2024.6時点)でSlowdive(2.56M)やCocteau Twins(2.94M)に匹敵するほどの数字を叩き出しています。
VOL.1の時は辛口レビューしちゃいましたが、今や彼のサウンドは疑いようもなく本物。本年度のベストアルバムに多く名前が挙がる未来が見えます。
2024.06.20に新曲のリリースを控え、そのクリエイティビティは衰えることを知りません。今後がますます楽しみですね。
Novulent
dear diary
Novulent
dear diary
- release date /2024-01-22
- country /US
- gerne /shoegaze, slowcore, grunge, nu-metal, emorap
TikTok発新星シューゲイズアクトの4thアルバム。
VOL.1に続いてヘヴィでメランコリックなシューゲイズをやっていますが、曲ごとの個性がより強くなった印象。
ダークさを追求した#2"Soul Eater"。疾走感のあるアップテンポなナンバー#4"Inner Peace"。エモ/ブレイクコア・アーティストEmma Aibaraのコラボ曲#7"Stare"では軽快なドラムンゲイズを披露。一気に曲のバリエーションが増えており、急速な成長に目を見張るばかり。
ひたすらダウナーだったボーカルも、エモーショナルなパートが増えて好印象。次作も楽しみですね。
Sledges
Losing Pace
Sledges
Losing Pace
- release date /2024-05-02
- country /US
- gerne /shoegaze, alternative-metal, grunge
USカルフォルニア州サンディエゴのオルタナティブメタル/シューゲイズ・バンドの1stEP。
ヘヴィでグルーヴィなギターリフが多めで、ざっくり言うとThe Smashing Pumpkins〜Deftonesの系譜ではありますが、陽炎のように揺らめくギターやエコーがかかった淡い歌声にシューゲイズの血を色濃く感じます。
お気に入りは#4『June is better than July』。繊細なアコギのイントロから一転、歪んだギターが哀愁をぶちまけながら乱入する王道展開に胸が熱くなる。切なく湿っぽい歌メロも私好み。
また#3『Weightless』では凍度高めな疾走シューゲイズも披露したりと、まだまだ手札を隠し持っていそうな気配。今後のリリースに期待しています。
V.A.
I Saw The TV Glow (Original Soundtrack)
V.A.
I Saw The TV Glow (Original Soundtrack)
- release date /2024-05-10
- country /various countries
- gerne /shoegaze, dream-pop, doomgaze, alternative-rock, indie-pop, indie-folk, ambient, soundtrack
A24が贈る青春スリラー映画『I Saw The TV Glow』のサウンドトラック。
インディー〜メジャーシーンから豪華アーティストが結集した音楽ファン垂涎のコンピレーションとなっています。以下、アーティスト一覧。
Sloppy Jane Feat. Phoebe Bridgers, Snail Mail, Alex G, King Woman, Caroline Polachek, Yeule, Florist, Bartees Strange, Drab Majesty, Frances Quinlan, Jay Som, L'Rain, Maria Bc, Proper, Sadurn, The Weather Station
どこかの大型フェスですか?ってくらい充実のラインナップ。さらに劇伴担当はAlex G!
ここではシューゲイズ・ドリームポップ好きにお馴染みのyeule・Jay Som・Drab Majesty・King Womanをピックアップ。
yeuleによるBroken Social Scene『Anthems For A Seventeen Year Old Girl』のアレンジバージョンはティーザーにも起用され、映画のミステリアスな世界観を象徴する1曲となっています。
Jay Som『If I Could』は彼女らしさが炸裂した爽やかなドリームポップ/インディーロック。今にも潮騒が聞こえてきそうな心地よさ。
白塗りの魔術師デュオDrab Majestyによる『Photograph』。キラキラ輝くギターとシンセに導かれ、80年代のダンスフロアへタイムスリップ。いつもよりキャッチーで思いっきりThe Cureに寄せてきましたね。
最大の目玉はKing Woman。Whirrの元ボーカリストという経歴を持つKris Esfandiariを擁するポストメタル/ドゥームゲイズ・バンド。彼らの代名詞である妖しく美しいメロディとヘヴィネスが炸裂しています。しかも2曲収録という力の入れよう。
こんな暗い曲どこで使うんじゃい!と思いましたが、劇中でKris Esfandiari本人がKing Womanとしてカメオ出演しているらしく、どこかで演奏シーンが描かれるのかもしれません。
また劇中のTV番組の名前がCocteau Twinsのコンピレーションアルバム『The Pink Opaque』からの引用であることも見逃せない。
映像面でもレトロなテレビをモチーフにしたガジェットはペルソナ4のマヨナカテレビ、テレビに頭を突っ込んだシーンはゲーム版lainの柊子さんを連想させるなどゲーオタ的にも興奮を禁じえません。日本公開が待ち遠しいですね。
※グラフはKing Womanの2曲が対象
Modern Failure
Downward Movements
Modern Failure
Downward Movements
- release date /2024-04-19
- country /US
- gerne /shoegaze, alternative-rock, grunge, noise, punk
USワシントン州シアトルより現れた謎のマスクマンによるデビューEP。
サウンドの傾向はTikTok界隈で人気のグランジ〜ニューメタルを経由したヘヴィシューゲイズですが、このアーティストはちょっとひと味違いますぜ。
最大の持ち味はノコギリの如くノイズをぶちまけるギターと獣めいたスクリーム。そこにクリーンボーカルが加わることで生まれる醜美のコントラストにキラリと輝くものを感じました。
その魅力が遺憾なく発揮されているのは#3『Self Help』と#5『Crash and Burn』。激しいノイズとスクリームが鼓膜を激しく苛むも、甘く気怠げなボーカルがその痛みをすっと和らげる。アメとムチの塩梅が絶妙というか、もはやある種のソフトSMですらあります。
音質はかなり荒く、曲ごとの音量も揃ってないわでDIY感は否めませんが、このローファイっぷりが作風に合っていてむしろカッコいいんですわ。今後化けそうな気配がするのでベスト入りとしました。
EP以外のシングル曲も良いのが揃っているので併せてチェックよろです。マスクマン繋がりでDeer Deathとのコラボもあるよ(笑)
The KVB
Tremors
The KVB
Tremors
- release date /2024-04-03
- country /UK
- gerne /darkwave, coldwave, gothic, industrial, post-punk, shoegaze, dream-pop
UK発コールドウェイヴ・デュオの8thアルバム。
今作は『ディストピア・ポップ』と称し、よりダークな世界観を追求。ミニマルなビートがもたらす荒涼感に艶のあるボーカルが華を添え、時にロマンティックなギターやシンセがオーロラのようにたなびく……彼らの持ち味である退廃美が全編に渡って発揮されています。
往年の作品に比べるとシューゲイズ度こそ控えめですが、ダークさは指折り。ゴス〜インダストリアル〜ダークウェイヴ大好き人間の皆さんはぜひチェックされたし。Dais Recordsのファンにも超オススメです。
なお「もっとシューゲイズしてなきゃヤダー!」という人は2ndアルバムのImmaterial Visionsをお試しあれ。こちらはシューゲイズ×ダークウェイヴのクロスオーバーの好例として語り継ぐべき名作の1つかと思います。
さてそんなThe KVBですが、再来日にも期待がかかるところ。
2019年の初来日公演はDansa med dig・Luby Sparksというサポートアクトも含め神イベントでしたね。
でもせっかくOnly Now Foreverのリリースツアーなのに推し曲の『Into Life』が聴けなかったのが心残り。どなたかもう一度呼んで頂けませんかぁ~?
CD Ghost
Vignette II
CD Ghost
Vignette II
- release date /2024-03-29
- country /US
- gerne /dream-pop, synthwave, synth-pop
前作Vignette Iの続編でレコードのB面にあたる作品。相変わらずドリーミーなシンセウェイヴ路線でハチミツのように甘美なロマンチシズムに沈めてくれます。
ダークウェイヴ色はすっかり影を潜めてしまい、弊サイトで扱うのが少々厳しくなってきたけれど、じっくり聴くと甘いベールの向こうに痛みや哀しみが潜んでいるのが感じられ、やっぱり好きだなぁとしみじみ。
#5『Twin Peaks』は明言こそされていませんが、タイトル通りツインピークスのOPのオマージュで間違いないでしょう。リフレインするシンセをじわじわとノイズが覆い隠していく様は何ともミステリアス。
Fainting Dreams
Those Left Untouched by the Light
Fainting Dreams
Those Left Untouched by the Light
- release date /2024-01-12
- country /US
- gerne /slowgaze, doomgaze, drone, shoegaze, slowcore, psychedelic-rock, stoner-rock
USコロラド州発の自称スロウゲイズ・バンドによる1stアルバム。
煙たいギターと粘つくようなビートがもたらす酩酊感に異郷めいた妖しげな声質の女性ボーカルがジャストフィット。
ボーカルは神への祈りのような神秘的な歌唱と、神に牙を剥くようなスクリームを巧みに使い分け、緩慢なテンポの中に緊張感を演出。聴き出したら最後、底なし沼にハマるがごとく抜け出せなくなることでしょう。ぜひお酒を片手に頭をぐらんぐらん揺らしながら聴きましょう(虚ろな目だとなお良し)。
Dead Can Danceを思わせるエキゾチックな歌声が異界への扉を開く#1『Those Left Untouched by the Light』から10分超えの長尺重轟音ドゥームゲイズ#6『Distillate』まで全曲お気に入り。
LeonovやSinistroといった暗黒呪術系ドゥームゲイズ〜ポストメタルが好きな人には文句なしにオススメ!シューゲイズだけでなくサイケ・ドゥーム・ストーナー方面を嗜む方もぜひお試しあれ。
Newmoon
Temporary Light
Newmoon
Temporary Light
- release date /2024-03-22
- country /Belgium
- gerne /shoegaze, dream-pop, post-rock, post-punk, grunge, alternative-rock
ベルギー発シューゲイズ・バンドの3rdアルバム。
ハードコアバンドMidnight Soulsの元メンバーを中心に結成。My Bloody Valentine、The Cure、Slowdive、Yuck、Nirvana、Nothing、Whirrなどにインスピーレーションを受けたという彼らは、1stアルバム『Space』にてハードコア由来のヘヴィなサウンドと哀愁味のあるメロディを融合し、一躍注目を集めました。
2ndから約4年ぶりとなる今作は、1stのヘヴィネスと2ndのポップネスをバランスよく配合し、Slowdive譲りの幽玄美でコーティング。メロディはさらにメランコリックになり、Life on VenusやLast Leaf Downに肉薄するほどの冷気を放つようになりました。
全曲もれなくお気に入りですが、#3『Fading Phase』と#5『Through the Glass』が今のところツートップ。特に後者のサビメロの切なさは今期最強クラスと思います。
本年度のメランコリック・シューゲイズを代表する金字塔的名作。同郷のSlow Crushともども1日も早く来日して欲しいですね!
kuragari
niconico
kuragari
niconico
- release date /2024-05-10
- country /Japan
- gerne /shoegaze, bedroom-pop, noise-pop, alternative-rock
日本発の謎のシューゲイズアクトによる4thアルバム。
耳をつんざくような強烈なノイズと、ささやくような淡い歌声の対比で魅せるスタイルは健在。マイベストは#4『またここに来た』。ノイズの向こう側から微かに聴こえる歌声は、温かくもどこか哀しげで涙を誘う……。
Sadness、Central Pacific State Beach、Parannoulのファンはぜひチェックをば。3rdアルバム『zzz... zzz... zzz...』もオススメです。
乙女絵画
境界
乙女絵画
境界
- release date /2024-05-12
- country /Japan
- gerne /folk, post-rock, dream-pop, alternative-rock, slowcore, psychedelic-rock
70年代の四畳半フォークと轟音ポストロックのクロスオーバーというユニークな音楽性を持つ札幌発のバンドによる1stEP。
牧歌的なメロディをポストロック風のゆったりした展開で聴かせる2023年の1stフルから、様々な要素を取り入れたハイブリッドなサウンドに変化。彼ら自身はシューゲイズを公言していないものの、轟音パートが醸し出す陶酔美や憂いを帯びた淡い歌声はシューゲイズ/ドリームポップオタクの耳にもフィットすることでしょう。
スロウコア風の鬱屈とした轟音が心に否応なく哀しみを植え付ける『さよならを教えて』がマイベスト。来生たかお級の哀愁メロをポスト〜マスロック風に料理した『夜が明けない』も素晴らしい。5曲とも全て気に入っています。
以前レビューした電球と相性抜群だと思うのでぜひ対バンしていただきたいところ。その筋の皆様、ご検討のほどよろしくおねがいしますッ!!!(土下座)
nim
Mushy
nim
Mushy
- release date /2024-02-21
- country /Japan
- gerne /emo, shoegaze, post-hardcore, post-rock
エモ×シューゲイズのクロスオーバーへ舵を切った3rdEP。
劇的な変化を感じたのは#2のタイトルトラック。リバーブを効かせた柔らかなサウンドと男女ツインボーカルの美しいハーモニーはまさしくシューゲイズの血筋。
ポストロックの手法でじっくりと哀愁を紡いでいく#3Will be gray、#4Alchemistaも素晴らしい。#4で披露されたHisana氏(Gt/Vo)の日本語の歌唱も大野愛果やthe brilliant greenの川瀬智子を儚げにしたような響きがあって新鮮でした。
Hisana氏はソロプロジェクトのappiでもドリームポップ~シューゲイズ系の曲をやっているので、ぜひあわせてチェックされたし。nimがシューゲイズに接近した一方で、appiはヘヴィでメランコリックだった前作からbeabadoobeeを思わせる柔らかなサウンドに変化した点もなかなか興味深いところ。もしかするとnimとのバランスを考慮した結果なのかもしれませんね。
EARTHLING
EARTHLING 1st
EARTHLING
EARTHLING 1st
- release date /2024-04-23
- country /Japan
- gerne /post-rock, alternative-rock, shoegaze, post-metal, doom-metal
町田を拠点に活動するポストロック/シューゲイズバンドのデビューEP。V系の血を感じさせるの妖美なボーカルと激しいノイズギターが織りなすサウンドは、甘い芳香を放つ毒の花のよう。ひとたび味わえばしびれるような快感に全身が侵されること必至。耳の限界までボリームを上げて楽しみましょう。
暗い情念を宿した唄が強烈なノイズとともに襲いかかる『ビードロ』、淡く浮遊するメロディとポストメタル級の重いリフの対比が広大なスケール感を演出する『バベル』が双璧。
Plastic Tree、101A、殻などが好きな人はぜひチェックされたし。
電球
人工島
電球
人工島
- release date /2024-05-01
- country /Japan
- gerne /doomgaze, drone, shoegaze, post-rock, noise, industrial, ambient
突如サブスクのオススメ欄に現れた見覚えのないモノクロのカバーアート。ふと何気なく再生したら、その濃密な世界観にたちまち虜になりました。
ドゥームゲイズ〜ドローン由来の重轟音と濃霧のようなアンビエンスが生み出す酩酊感たるや、出口のない灰色の迷路を彷徨うがごとし。超ヘヴィでいて歌はすこぶるポップというギャップも味わい深く、ふと気付けば半日丸々トリップしてしまいました。まさかJesuやInfinite Vacation(現Central Pacific State Beach)に近い感性を持つアーティストが日本にいるとは感無量。
無機質なビートと繊細な美メロのハーモニーに酔う『脱け殻』、廃墟群に響く風切り音のようなギターが鮮烈な『4番線』、Jesuに四畳半フォークを注入したようなアプローチの『夕立』、地鳴りのごとき轟音が脳を揺さぶる『星を待つ』など、いずれも粒ぞろい。
映像喚起力も凄まじく、『4番線』で壊れた機械のように繰り返される電車のアナウンスにブラッドベリ『優しく雨ぞ降りしきる』のワンシーンが浮かんだり、『脱け殻』に漂う無常観にバラード『終着の浜辺』の遺棄された核実験場が浮かんできたりと妄想回路が大忙し。私の場合はSF野が活性化しましたが、他の皆さんのお脳にはどんな光景が閃くのか興味津々です。
日本シューゲイズ界に開花したモノクローム・サイケデリア。ぜひ一刻も早く生で味わいたいものです。
【追記】『月光』はbandcampのみ収録。聴き逃さぬよう注意されたし。
Deadlyswcct
Eternal lament
Deadlyswcct
Eternal lament
- release date /2024-03-08
- country /US
- gerne /shoegaze, alternative-rock, grunge, trap
分かっているのはUSオクラホマ州在住のSSWらしいという僅かな情報のみ。霧が立ち込める森を彷徨い歩くような陰鬱なムードの中、ヘヴィなギターとアンニュイな歌声が絡み合う様のなんと鬱くしいこと……。WispやSoftcultと共通点が多いものの、ちょいちょい入るトラップビートが良い味を出しています。
ただ音源がYouTubeとSoundCloudのみで少々薦めづらいのが難点。サブスク解禁を待ちましょう。
deer death
Remasters & Demos
deer death
Remasters & Demos
- release date /2024-01-24
- country /US
- gerne /shoegaze, alternative-rock, grunge, dream-pop
初期曲をまとめた編集盤。数曲にリマスターが施されていますが、元々ドライでノイジーなサウンドが醍醐味ですし、そんなに気にせんでもええんですよ?
音質はともかく、バラバラにアップされていたものをまとめて聴けるのは素直にありがたい。初期から微塵も作風がブレていない事が確認できただけで大収穫です。今後もメランコリーの伝道師として末永く頑張っていただきたいところ。
近頃は週1ほどのスパンでニューシングルを公開しており、今年中にも次のアルバムが出てしまいそうな勢いですが果たして。
Amira Elfeky
Skin to Skin
Amira Elfeky
Skin to Skin
- release date /2024-03-29
- country /US
- gerne /nu-metal, alternative-metal, grunge, shoegaze
US発シンガーソングライターのデビューEP。たまたまつべのオススメに流れてきたのを聴いて一瞬で脳を灼かれました。一言で例えるならズバリDeftones×Evanescence。近い作風のアーティストは決して少なくありませんが、これほどハイレベルなものは滅多にないと断言します。ダークでヘヴィな音楽が好きならガッツポーズ間違いなしでしょう。
サウンドの軸は90〜00年代ニューメタルのため全くもってピュアなシューゲイズで無い事は百も承知ですが、初期曲のTonightは割とシューゲイズ判定もありと思います。Narrow HeadやLoathe、Wisp等が好きなヘヴィシューゲイズオタクはぜひ一度お試しあれ。
GONE.
Poor You
GONE.
Poor You
- release date /2024-03-08
- country /US
- gerne /shoegaze, dream-pop, slowcore
USヴァージニア州ノーフォーク発のシューゲイズ/スロウコアバンドの2ndアルバム。三部作のパート2にあたる作品だそう。スロウなビートにのせて紡がれる物憂げなメロディが聴く者の心に否応なく孤独感を植え付ける。
霧の立ち込める沼地を彷徨い歩くようなサッドナンバー『Crave』、80sゴシックロックの影響が垣間見える『Pain』など良曲多し。
Ozurie
Nowhere To Be Found At All
Ozurie
Nowhere To Be Found At All
- release date /2024-03-06
- country /US
- gerne /shoegaze, alternative-rock
USテキサス発シューゲイズのデビューEP。ヘヴィなギターと気怠げなボーカルを混ぜ合わせ、ダウンテンポでじっくりと料理する手腕にLife on VenusやWispとの共鳴を感じました。ぜひ鉛色の空を見上げながらため息とともに味わいましょう。しかしこのクオリティでYouTubeの再生数が二桁とは解せぬ。
Byakusyn
meiso
Byakusyn
meiso
- release date /2024-03-13
- country /Japan
- gerne /alternative-metal, blackgaze, post-metal, post-hardcore
仙台発のソロアーティストによる2ndアルバム。90年代V系、00年代ニューメタル、00年代~現代のポストメタル、ポストロック、ポストブラック、ブラックゲイズなどに影響を受けたダークでヘヴィなインストゥルメンタル作品。
メタル〜ハードコア由来のヘヴィな刻み、哀愁味のあるリード、オーロラのようなクリーンを巧みに使い分けるギターは、ボーカルの不在を補って余りあるほど表情豊か。随所で挿入される変拍子も良いアクセント。前作から格段に音質が向上している点も見逃せない。
個人的ハイライトは『fukuro no niwa』。変拍子を交えたテクニカルなパートからInsomnium級の哀愁ギターを炸裂させる流れに北欧の雪原に放り出されたような心地を覚えました。Deftones風のグルーヴィなリフが冴える『suiu』もお気に入り。シューゲイザーだけでなくヘッドバンガーやプログレッシャーもまとめてカモン!
Suldusk
Anthesis
Suldusk
Anthesis
- release date /2024-03-01
- country /Australia
- gerne /blackgaze, post-rock, dark-folk
オーストラリア発ブラックゲイズ/ポストロックバンドの2nd。MyrkurやSylvaineはエクストリーム系とフォーク系で作品を分けていたのに対し、トラッド/フォークとブラックゲイズのパートを交互に配置し、美と暴力のコントラストで魅せる折衷スタイルを採用。ストリングスを交えた繊細なフォークとブラストビートの爆走パートを行き来するタイトルトラックはその好例。
Northern Silence Productionsから大手Napalm Recordsに移籍してプロダクション面も大幅に向上。この界隈で一躍注目される存在になった事は間違いないでしょう。ライブも積極的に行っているようなので来日に期待したいところ。
the neverminds
nevermind, the winter.
the neverminds
nevermind, the winter.
- release date /2024-02-24
- country /Canada
- gerne /shoegaze, dream-pop
前作『the summer』から一転『the winter』と題し、冷気を伴うメランコリックなサウンドへシフト。ノイジーな音質も凍てつく吹雪のようでかえって好印象。
“please haunt me die...”という狂おしい願いが轟音に木霊する『haunt me』は今年のベストチューン候補。アウトロの哀しみと諦めが混じったような歌声に涙を禁じ得ない……。twinotterとのコラボ曲も素晴らしいのでぜひ。
【2024.05.04追記】
まさかこれほど早く実現するとは嬉しい驚きでした。さらに7公演のうち5つにherveilの参加が決定。よってダークシューゲイズ界における重要なイベントになることは必至。弊サイトも微力ながら応援いたします!
twinotter
the moon is beautiful, isn't It?
twinotter
the moon is beautiful, isn't It?
- release date /2024-02-02
- country /US
- gerne /shoegaze, post-rock
US発シューゲイズの1stフル。インストメインでダイヤモンドダストのような冷たく美しいギターが特徴。アニメ『ホリミヤ』のワンシーンをフィーチャーしたロマンティックな導入からヘヴィなギターが唸りを上げる『Listen To Your Heart』が好きです。ネタのチョイスがメジャーすぎないところもオタク的に好印象。
またSpotifyのプレイリストには溶けない名前、揺らぎ、東京酒吐座、17歳とベルリンの壁、cruyff in the bedroomといった日本のバンドが名を連ねており、プロフィールのアイコンが碇シンジなところからも相当日本に造詣が深いもよう。twinotterという不思議な名前も含め興味が尽きませんね。the nevermindsとのコラボ曲も素晴らしいのでぜひ。
Blurred City Lights
天使のいない街で
Blurred City Lights
天使のいない街で
- release date /2024-02-17
- country /Japan
- gerne /shoegaze, dream-pop, post-rock, ambient
名古屋発シューゲイズ/ドリームポップバンドのデビューアルバム。透明感のあるボーカルと幽玄で美しいギターが創生するどこまでも蒼く透明な夢幻世界。涙を誘う切ないメロディが疲れ傷ついた心にそっと包帯を巻いてくれます。
喪失感に苛まれながら光へと踏み出していく構成や(僕/君)と(わたし/あなた)を軸にした語り口に90~00年代の泣きゲーやセカイ系を見出す人も多いことでしょう(私だ)。アルバムを締めくくるcitylightsの“何も怖くないね”、“きみのもとへ往くよ”のフレーズにもう号泣ですよ……。
また街をバックに物憂げな視線を送る天使のアートワーク(制作はBa/Voの神谷氏)も楽曲にマッチしていてお気に入り。私はひと目見て灰羽連盟やベルリン・天使の詩を連想しましたが、聴き終わった後に振り返ってみると、どちらの世界観にもフィットしていて驚いたものです。皆さんがこのアルバムにどんな物語を重ねたのか、小一時間くらい語り合ってみたいものですね。
せ~のッ!ライブハウスで私と握手!!!
NewDad
MADRA
NewDad
MADRA
- release date /2024-01-16
- country /Ireland
- gerne /shoegaze, dream-pop, indie-pop, gothic-rock
EP2作で見せたドリーミーなサウンドにダークな感性を開花させたデビューアルバム。Cocteau Twins、The Cure、Siouxsie and the Bansheesといったゴシックの先達に連なる仄暗さが香り立ち、たいへん美味しゅうございました。
元来ドリームポップ〜シューゲイズとゴシックは共通のルーツを持っている事から親和性が高く、長年クロスオーバーが試みられているため、斬新な変化とは言い難いところですが、多くのインディーファンの歓迎の声を耳にするに今後のシューゲイズ×ゴシックの系譜における火付け役になってくれそうな予感。
つべに公開されているThe Cure - Just Like Heavenのカバーも素晴らしいのでぜひ。
Prize Horse
Under Sound
Prize Horse
Under Sound
- release date /2024-02-16
- country /US
- gerne /shoegaze, alternative-rock, grunge, slowcore
ダウンテンポでじっくりメランコリーを紡ぐサウンドはスロウコア〜サッドコアに通じる聴き心地があり、沈んだ気分に寄り添ってくれること間違いなし。ため息が充満した部屋で独り静かに味わいましょう。
deer death & Nextime
Next Death
deer death & Nextime
Next Death
- release date /2024-02-16
- country /US
- gerne /shoegaze, alternative-rock, grunge, dream-pop
deer deathとNextimeのコラボ作。近い音楽性を持つ者同士のため素人耳では役割分担を解読できないものの、deer deathらしいノイジーなギターと哀愁味は健在。いつになく淡く儚げなムードの『Crawl』が特に気に入っています。男だってしんみり泣きたい時くらいあるよね。
CIGARETTE in your bed
Lost in...
CIGARETTE in your bed
Lost in...
- release date /2024-01-17
- country /Japan
- gerne /shoegaze, dream-pop, grunge
ノイジーなギターと陶酔美の二面性で魅せるヘヴィシューゲイズ。頭蓋骨をゴリゴリと削ぎつつ脳へ直に甘い蜜を注ぎ込むようなスタイルは日本においてかなり希少。キレイなだけじゃ得られない刺激的な体験をぜひご賞味あれ。