
麻枝 准×やなぎなぎ
Love Song from the Water
麻枝 准×やなぎなぎ
Love Song from the Water
- release date /2022-10-26
- country /Japan
- gerne /shoegaze, post-rock, progressive-house, dream-trance, electro-pop, alternative-rock, symphonic-rock, folk
本作『Love Song from the Water』は、アプリゲーム『ヘブンバーンズレッド』の劇中歌を収録したアルバムで、2022年10月26日にCDが発売され、2024年7月21日にサブスクが解禁となりました。
作詞・作曲を手がける麻枝 准氏はKanonやAIR、CLANNADなどの名作ビジュアルノベルを生み出したkeyを代表するクリエイターの1人。作曲だけでなくシナリオライターとしても腕を振るい、彼が生み出す感傷的なストーリーは多くのファンを魅了してきました。
ボーカルのやなぎなぎ氏は、nagi名義でゲストボーカリストとして参加したsupercell『君の知らない物語』で一躍注目を集め、2012年のテレビアニメ『あの夏で待ってる』のエンディングテーマ『ビードロ模様』でソロとしてメジャーデビュー。今もなお数多くのアニメやゲームの主題歌を担当し、透明感のある儚い歌声で物語に豊かな彩りを添えています。
そんな切なさのスペシャリスト2名によるコラボはまさに鬼に金。ヘブンバーンズレッドが掲げる“最上の、切なさを。”というキャッチコピーにふさわしい名作となっています。
開幕を飾る#1“Before I RIse”のイントロのピアノで麻枝准ワールド全開。力強いビートと高揚感のあるメロディが物語の幕開けを予感させます。広大な夏空が脳裏に浮かぶバラード#7“夏気球”は、AIRを思い出すノスタルジックなナンバー。儚さと切なさと力強さが一体となって疾走する#12“きみの横顔”は繊細なピアノの音遣いに90〜00年代のプログレッシブハウス〜ドリームトランスを思い出して目頭が熱くなります。
また、やなぎなぎ氏は2012年にも麻枝准氏とタッグを組んで『終わりの惑星のLove Song』というコンセプトアルバムをリリースしていましたが、約10年後に制作された本作ではクセの強いメロディを以前よりも遥かに自在に歌いこなしており、シンガーとしての確かな成長が感じられるのも嬉しい発見でした。インタビューでも麻枝さんの曲を歌うのは修行が必要と語っており、どれだけ難しいかが伝わってきますね(笑)
そんな本作の中で、私がシューゲイズ好きに強くオススメしたいのが#13“White Spell”。狂おしいほどの哀しみをまとった歌声が、バックに吹き荒れるダイアモンドダストのようなサウンドとあいまって、アルバム中でも屈指の切なさを誇る曲となっています。CD特典の楽曲解説で麻枝 准氏はデモから化けた曲第一位だと語っており、サビの轟音ギターはおそらく編曲のMANYO氏の手によるものと思われますが、それによってWhirrやSigur Rósといったシューゲイズ〜ポストロック系のサウンドに通じる質感が生まれていて、どんな作品をリファレンスにしたのか非常に気になるところですね。さらにアウトロではトドメと言わんばかりにBTやRobert Miles風の繊細なピアノが挿入され、深い余韻をもたらしてくれます。楽曲を構成するもの全てがことごとく心に刺さって、聴くたびに涙が流れるようになってしまいました……。
さてここまでヘブバン未体験の状態でWhite Spellについて語ってきましたが、この曲の真の素晴らしさを伝えるには全くもって不十分であると言わざるえません。それは麻枝 准氏がシナリオライターと作詞・作曲を兼任していることが理由です。きっと歌詞とストーリーが強く結びついていることは間違いなく、単に曲を聴いただけでは、その真価を理解したとは決して言えないでしょう……そこで私は、ためらうことなくヘブンバーンズレッドをインストールしました。ゲームプレイ中にWhite Spellが流れる時、どのような物語が描かれるのか──非常に楽しみで仕方ありません。
次回『White Spellが聴きたくてヘブバンをやってみた編』にご期待ください!