Wisp

Pandora

Wisp

Pandora

  • release date /
    2024-04-05
  • country /
    US
  • gerne /
    shoegaze, dream-pop, alternative-rock, grunge
Light
Dark
Soft
Heavy
Clear
Noisy
Slow
Fast
Pop
Extreme

カリフォルニア州サンフランシスコを拠点に活動するアーティストWisp(Natalie R Lu)によるデビューEP。

Wispを瞬く間に有名にしたのは1stシングルのYour Face。当時18歳のNatalie R Luが、grayskiesによって制作されたトラックにAppleのイヤフォンをマイク代わりにして歌を入れ、携帯でミックスしてTikTokへアップロードしたところ大ヒット。Spotifyでリリースされると約1ヶ月で100万再生を達成しました。そして2曲目をリリースする前にBillie EilishやLady Gagaなどを擁するメジャーレーベルInterscope Recordsと契約を結ぶに至ったというから驚きです。2曲目のリリース前は90万だったSpotifyの月間リスナー数は、196万(2024年10月)とさらに膨れ上がり、その人気を不動のものとしています。そんなおとぎ話のようなストーリーも含め、現在のシューゲイズシーンの『顔』といえる存在がWispなのです。

Wispのサウンドの魅力は、淡く儚いボーカルと重厚なギターのハーモニーが織りなす、まるで水中へ沈んでいくようなメランコリックな世界観にあります。Wispが最も敬愛するアーティストはWhirr(InstagramのIDに使用するほどの熱狂的なファン)で、他にCocteau TwinsDeftonesなどを挙げており、耽美なメロディとヘヴィネスの融合は彼らの影響であることがよく分かります。

ちなみにWispに代表されるヘヴィでメランコリックなシューゲイズは、ニューゲイズ(Nu-Gaze:00年代のシューゲイズ・リバイバル時に生まれた言葉ですが、近年ニューメタル×シューゲイズの文脈に再定義されつつある)と形容され、TikTokを中心に膨大な数のフォロワーを生み出しています。今やTikToKを軽くチェックすればサブスク未登録のダイヤの原石がゴロゴロと見つかるくらいです。様々なレーベルが次世代のスターを探してTikTokに目を光らせているのも納得ですね。

さてWispの経歴はこれくらいにして曲の感想へ移りましょう。オープニングを飾る#1“Pandora”は、Krausのプロデュースによるヘヴィなナンバー。起伏のある展開が生む高揚感がパンドラの箱を開けた時のようなカタルシスを演出します。#2“Your Face”、#3“Enough for you”はWhirrを連想させる陰のあるメロディと沈んでいくようなビートのハーモニーが絶品で、Wispの真骨頂というべき楽曲。一転して#4“Luna”では光が降り注ぐようなドリーミーなサウンドを披露し、作品全体に陰影のコントラストをもたらしています。続く#5“See you soon”は恋愛にフォーカスしたロマンティックな歌詞が印象的。終盤のアップテンポのパートに恋している時の幸福感がよく現れています。最後はノイジーなギターに子守唄のような安からなメロディが溶け込んだ#6“Mimi”で幕を閉じます。

TikTokやSpotifyでのバイラルヒットにより一躍注目を集め、Interscopeに見出された経緯から、産業的に生み出されたスターと揶揄されることもあるようですが、これほど素晴らしい楽曲が揃っていれば、そんな外野の声を黙らせるには充分でしょう。また幼少期にヴァイオリンやクラシックギターを学んだ後にエレキギターとベースを経験しており、現にライブでもギターを弾きながらパフォーマンスしていることから、ミュージシャンとしての才能を持っていることは明らかだと思います。

現在Wispは2023年12月の1stライブを皮切りにして、ライブ活動を熱心に行っており、2024年5月にはPanchikoの北米ツアーのサポートアクトも務めました。カバーアートの天使のようにインターネットの森に潜んでいたWispという個人が、今や大きな翼を羽ばたかせて各地へ熱狂を届けているのだと思うと非常にドラマティックですね。ライブバンドとしてさらなる成長を遂げているであろうWispを1日も早く観てみたいものです。アルバムも制作中とのことで、今後ますます人気が出ることは間違いないでしょう。日本のプロモーターの皆さんは、Wisp来日公演の実現にご尽力くださいますよう何卒よろしくお願い申し上げます。