
Midas Fall
Cold Waves Divide Us
Midas Fall
Cold Waves Divide Us
- release date /2024-03-08
- country /UK
- gerne /alternative-rock, dream-pop, electronica, ethereal-folk, gothic, neoclassical, post-rock, progressive, shoegaze
スコットランドのポストロック・バンドMidas Fallの5thアルバム。レーベルは65daysofstaticやSleepmakeswaves、This Will Destroy You等の実力派ポストロックバンドを擁するMonotreme Records。
2008年頃にElizabeth HeatonとRowan Burnによって結成され、いくつかのメンバー変動を経て、本作からMichael Hamilton (Ba)が加入しトリオ編成になっています。Midas Fallの「ミダス」はギリシャ神話に登場した「触れるもの全てを黄金に変える力」を持つミダス王を指していると思われます。活動当初は非常に下品なバンド名でしたが、音楽性に合うよう辞書から2つの単語をピックアップしてMidas Fallとしたのだそう。詳細はインタビュー(Midas Fall | Grande Rock webzine)をご覧ください。きっとMidas Fallになって良かったと胸を撫で下ろすはずです(笑)
結成当初は、ElizabethがÓlafur Arnalds(ポストクラシカル)、65daysofstatic(ポストロック)、Chelsea Wolfe(ゴシック/ダークフォーク)などの繊細で美しい音楽を好み、RowanはTool、Pantera、Celtic Frostに夢中なメタルヘッズという異なる嗜好を持っていたようです。そんな2人の個性が化学反応を起こし、プログレッシブな構造とネオクラシカル/フォークの崇高さ、シューゲイズの陶酔美、ポストロックのダイナミズムを網羅した極めて幻想的で美しいサウンドが誕生しました。
ベッドルームで制作され、繊細なサウンドスケープが主体となった前作『Evaporate』は非常に高く評価され、英Prog Magazine主催のProgressive Music Awards 2018でライムライト賞を獲得。その才能はThe Cureのロバート・スミスの目にも留まり、彼がキュレーターを務めるMeltdown Festival 2018に招致されたのも記憶に新しいです。
本作は、彼らの持ち味である幻想美はそのままに、5弦ベースとバリトンギターを導入してダークかつドラマティックに進化を遂げています。この変化は高い作曲スキルを持つベーシストMichaelの貢献も大きかったようです。シルクのようになめらかな質感と、心を震わせる激しい情感を備えたElizabethの美声も圧巻で、重厚なストリングス、エレクトロニックなシンセ、煌めくギターと一体となって大きな波となって押し寄せ、海底から天空へと飛翔するような感覚を呼び覚まします。
イチオシは#2“I Am Wrong”。星々の輝きのような美しいギターを散りばめつつリズミカルに進行し、最後は「I Am Wrong!」と自罰的な怒りを吐き出しながらダイナミックな轟音でカタルシスをもたらす名曲。映画『ポゼッション』の発狂シーンをモチーフにしたMVも素晴らしい。
美しいストリングスが安らぎをもたらす癒し系フォーク#4“In This Avalanche”。プログレ風のスリリングな展開が光る#6“Monsters”。悲痛なボーカルが涙を誘うバラッド#7“Atrophy”。ポストロックのダイナミズムに軽快なエレクトロビートを接続した#8“Cold Waves Divide Us”。吹雪のような轟音が魂を凍らせる#10“Mute”に至るまで全てが名曲レベル。
貪欲なまでの美しさへのこだわりは、Dead Can DanceやCocteau Twinsといったかつての4ADのレジェンドたちにも引けを取りません。2024年を代表する耽美系ポストロック/シューゲイズの傑作です。